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target2-9.全寮制男子学園
…男が男を襲う?
「ちょっと待て。其れじゃあ俺よりお前の方が危ねぇだろ」
颯都は雪斗が襲われていた場面に遭遇したのだ。
危険度は雪斗の方が高いだろう。と颯都は推測した。
「あの時は、油断してしまっただけです!それに少しですけど…怖くて。でも、もう油断しません。絶対に」
一瞬表情を曇らせた雪斗だったが、次の瞬間には力強い目で断言する。
颯都はその目を真っすぐ見つめ返す。
「…そうか」
そして、白いワイシャツを羽織る。
「颯都さんは強いですけど、出し抜かれないように気をつけてくださいよ」
「俺は其処まで柔じゃねぇよ」
何度も確認され大袈裟だと思いながらボタンを止めていく。
着替え終わりドアから出ていく時に、颯都は振り返った。
「もし、その"絶対"が外れた時は…また助けてやるな」
優しく微笑んでから、ドアを閉めた。
「…だからズルいですよ……どこまで好きにさせるんですか…颯都さん」
顔を真っ赤にさせた雪斗は、空色の眼を見開いたまま呟いた。
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――――――――
朝の支度を済ませた2人は、高等部の食堂のドアを開ける。
颯都の首には、噛まれた痕を隠す為に黒いシンプルなチョーカーがしてあった。
「きゃあ~っ雪斗く~ん!」
「誰々!?隣にいるかっこいい人!!」
「すげ、イケメン」
「絵になるし……まさか、付き合ってるのか…!?」
ここはれっきとした男子校。
沸き立つのは女子ではなく、男子だ。
「……酷ぇな」
颯都は盛大に顔をしかめ、チラッと群集を見て零す。
一瞬視線を受けた方は、
「きゃっ!こっち見た~~!!」
「違うよっ、僕の方を見たんだよ!」
「あの鋭い目つきはタチっぽいが…妙に色気あるな」
などと水を得た魚のようにはしゃいだり、タチの男達からも注目されている。
食堂は食券販売とバイキングがあり、2人は食券販売の所へ行く。
雪斗は颯都の人気を見ながら券売機にお金を入れ、カルボナーラを買う。
「(案の定、か…)いつもの事ですよ。僕のは序の口だし…生徒会メンバーが来る時なんて、正直うるさくて」
思わず苦笑が漏れる。
「生徒会が、何で騒がれるんだ?」
颯都は焼き魚定食を買いながら疑問に思う。
生徒会と言う、規律正しそうな響きからは今の歓声と繋がらないのだ。
雪斗はその説明は後で、と颯都に微笑んで、奥の方に声を投げた。
「すいませーん!」
「はぁーい」
出て来た人に雪斗は食券を渡し、颯都もお願いします、と渡した。
受け取ったのは、エプロン姿で髪を結わえ、清潔感が漂う笑顔が朗らかな人だ。
「雪ちゃん、このイケメンだぁれ?彼氏?」
顔立ちは綺麗だが、オネエ系だったらしい。
雪斗はそんな風に見えるんだ…と顔を赤らめながら呟く。
「違ぇよ。…同室なだけです」
颯都は反射的に素でツッコミ、冷静に言い直す。
「あーら、じゃあ私にもチャンスがあるのかしら?」
「すいません、俺生憎そういうのじゃないんで」
スパッと斬り捨てる颯都に、あーら残念と唇に指を当てる。
「あ、もしかして!
彼が昨日言ってた編入生の子でしょ!昨日雪ちゃんを助けてお姫様抱っこした王子様!」
閃いた表情で手をパン、と叩いて笑顔を輝かせる。
「王子様……」
自分には似合わないと颯都は表情を引きつらせた。
「ち…違いますってばっ!綾さん!
単に同室な…だけ、ですし……」
言い返そうとした雪斗の脳内に、出会った時の鮮やかに男達を倒す格好良さや、横抱きにされた時の会話、今朝見てしまった風呂上がりの姿、血を飲んだ時の艶やかな表情や声が映像と音声付きで流れてきて、だんだんと赤面していく。
「あらぁ~?その表情は……何かあったのねぇ?
同室だもの、多少の事態は仕方ない…ものね」
赤面する雪斗をからかうように言ったが、最後にチラッと颯都の首のチョーカーに目線をやった。
「(!……気付いてる?)」
警戒態勢に入った颯都は、鋭い目線で綾瀬を見る。
「キスマークをつけたんでしょ?
も~、意外と大胆ね~♪」
食堂に響く大きな声に、二人を始めとした全員が固まり、驚愕の表情になった。
「ちっ…違いますうぅぅうううっ!!!」
それを上回る大声で、真っ赤になったまま雪斗は叫んだ。
あれから食堂にいた生徒はざわめき立ち今しばらく、ざわめきは減らない。
料理を載せたお盆を受け取り、テーブルの席について落ち着いたがまだ少し頬がピンク色の雪斗が、途中だった生徒会の説明を再開した。
「生徒会は、3月頃に生徒から投票を集って結成され、貴族階級の者から選ばれます。
彼らは元々の血筋の良さから、知力や能力、容姿も際立っていいですから…彼らを好む者は大勢います」
2人はいただきます、と手を同時に合わせるとそれぞれの朝食を食べ始める。
「へぇ…各国から選りすぐりの物好き達が集まってんだな、この学園は」
颯都は皮肉めいた事を言い焼き魚の骨を綺麗に抜きながら、右手にご飯を持ち食べる。
雪斗はいえ、と笑った。
「元々はノーマルの人の方が多いです。
でも初等部からいると、色々見ますし…慣れて、普通に受け入れてしまった方が楽、というのもあります。
思春期ならではの事もありますしね。
僕も…最近まではノーマルでしたし、颯都さんが抵抗あるのも分かります」
そう。
ここはただの学園にしては色々おかしい。
生徒が常に性に浮ついている感じがする。
「…何故理事長は、男女共学にしないんだろうな」
颯都は、ふと疑問に思った事を口にした。
一つを覗き、全てが揃っている学園。
そのたった一つ…女性という項目さえ満たされれば、こうも風紀が乱れる事はないと思うのだが。
「それは…おそらく望めないと思います。
理事長の教育方針として、「男子学生の健全で剛健な精神と肉体を育てる」とありますから」
「へぇ…其奴はいい筋書きだな」
それを聞いた颯都は表向きは微笑んだが、内心ふざけるなと思った。
(何が"教育方針"だ!…和泉さん)
(あんたの頭の中を引きずり出して、作り替える必要がありそうだ)
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