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target2-10.生徒会
咲良は昨日颯都と別れた後、お気に入りを呼び出してもなぜか気乗りせずに追い返した。
今までそんな事はなかったのに。
耳許でガチャガチャとうるさい取り巻きの話を耳に入れず、食堂の扉を開け、この時間帯で珍しく中が色めき立っているのに気づく。
その中心には、滅多に人と連まない白瀬雪斗。
そして…五十嵐颯都。
「(何やの?…オレを突き放して…新しい男のとこに行きよったんか?…ホンマ、タチ悪いわ)」
咲良は冷めた視線で見て皮肉を込めるが、心はモヤモヤとした気分のままだ。
昨日から食が進まなくお腹が空いているからだろうと結論づけて、バイキングを取り、2人から離れた席に座った。
取り巻き達も当たり前のように隣に座ったがどうでもよかった。
咲良は、とにかく2人の様子が気になった。
その頃注視されているとは気付かず雪斗は学園のイロハを教え、颯都はそれに頷き、たまに疑問を投げかけたりしながらゆったりと朝食を終えた。
「雪斗。付いてる」
「えっ?なに…」
雪斗の口端にホワイトソースがついている事に気付いた颯都は、指で拭うとそれを赤い舌でペロリと舐めた。
雪斗も、それを見ていた周りの生徒も一瞬で赤くなる。
「なっ…自分何しとんねん!」
咲良は遠くで思わず叫んで立ち上がった。
取り巻き達に驚かれて、咳払いをして座った。
「(何、動揺してるんや……もう自分とは何の関係もあらへんのに)」
そして、次の瞬間ある者は下半身を押さえながら食堂を出て行き、ある者は歓声を上げた。
「は?行き成りなんだ…?」
「(今の奴らは確実にアレやないかい!無自覚にも程があるで…歓声も、まるで生徒会並みや)」
咲良はストローでいちごオレを飲みながら、見ないつもりが完全に見入っている。
颯都は周りの騒ぎに呆然とするが、雪斗も違う意味で呆然としていた。
「(え、何今の!なんかエロい…じゃなくて!)颯都さん、今名前……」
「……悪い、かよ」
颯都は雪斗の視線に、顔が赤くなるのを感じ視線を逸らした。
雪斗は胸が高鳴って、慌てて言う。
「いえ、全然!
むしろ、もっと呼んでほしいと言うか…少しは気を許してくれたのかなって、嬉しかったです……」
「そんなつもりじゃねぇよ!」
「はいはい」
珍しく慌てる颯都に、雪斗はさっきよりも微笑みを浮かべた。
「(なんやの…あの2人…まるで恋人同士みたいに親しげに……)」
咲良は満腹なのに虚しい気分になって、胸の辺りが切なくなった。
無言で席を立ち上がり、食器類を片付ける。
「何~?いきなりどうしたの~!?」
「待ってよ寮長~!!」
取り巻き達もついて来て、食堂を出る時生徒会の面々と擦れ違う。
「五十嵐颯都には、手を出さんといて」
咲良が擦れ違い様に一言言うと、生徒会面々は立ち止まった。
「何~?お前のチェック済み?」
「あなたがそう言ってくるなんて、初めてですね」
「いつもはとっくに喰ってはべらせてるお前が、どういう心境の変化だ?」
口々に聞いてくる面々に、咲良は振り返らずに答えた。
「…そんなんやあらへん」
そう…そんなんや、あらへん…。
喰うとか、はべらすとか。
そんな事やない…。
…あぁ、モヤモヤする。
去っていく姿を見ながら、見た目がそっくりの二人は同時に首を傾げた。
「どうしちゃったのかなぁ~?寮長」
「なんか、悩んでる感じだったねぇ~、寮長」
「五十嵐颯都……」
「…気になるんですか?」
「アイツが目を掛けるくらいだからな…少し見ておきたい」
そうして、食堂の扉を開けた。
一人が入ってきたのに気づき歓声を上げたのを筆頭に、次々と歓声が上がる。
「きゃあぁあ、生徒会の君々っ!!」
「璃空(リク)様あぁ~かっこいい~!!」
「京弥様、素敵~!!」
「昶(アキラ)様ぁ、抱いて~!!」
「今度ねぇ~♪」
昶、と呼ばれた男は歓声が上がった方に手を振る。
「きゃあぁあ~!」
女子のように沸き立つ可愛い系男子。
「翔(ショウ)ちゃんかわいい~っ!!」
「慧(ケイ)ちゃんかわいい~っ!!」
「「ありがと~♪」」
同時に上がった歓声に、翔は笑顔で手を振り、慧はウィンクを返した。
「うおおぉおお!」
一斉に沸き立つ可愛くはない男子達。
「…生徒会のお出まし、か」
颯都は一際目立つ生徒達に目をやった。
生徒会の面々は真っすぐ二人の方へ向かってくる。
「なんだか、こっちに来てる気がしません…?」
雪斗は眉を顰めるが、颯都は気の所為だろ、と気にせずコーヒーゼリーを食べていた。
「五十嵐颯都」
「…あ?」
低く威厳ある声が颯都の名前を呼び、気怠げに振り向く。
目立つ赤い髪と肉食獣のような眼が、颯都の記憶の嫌な場所に触れてきて颯都の眼孔が鋭くなる。
しばらく、颯都を舐め回すように見た後成る程な、と呟く。
「確かに、魅力的だ…。
その容姿も、声も、反抗的な眼も…匂いもな」
舌舐めずりする姿に、またもや颯都に悪寒が走る。
「会長~?見るだけじゃないの~?」
先程昶と呼ばれていた男が、赤いライオンのような男に問いかける。
「気が変わった」
サラッと前言撤回した会長に驚く一同。
「まさか……惚れた、とか言うんじゃないでしょうね?」
京弥はジトっとした目で見、両者視線がぶつかる。
「あぁ、惚れた」
「「えぇっ!?」」
雪斗と昶の声が綺麗にハモる。
「こんな会長を持つと、生徒会も苦労が絶えないだろうな」
「解ります?いつもこうなんですよ。気まぐれで自己中心的で」
「あぁ…お前も、大変だな」
京弥が愚痴ってため息を吐く。
颯都はこんな会長を建てなければいけない京弥を心から不備に思った。
「颯都。俺のモノになれ」
命令口調。完全上から目線。
負け知らずで欲しいモノは全て手に入れてきたこの男だからこそ効力のある、絶対的な命令。
雪斗は状況が飲み込めずに呆然とし、京弥と昶は呆れ、双子は喜々とした表情で状況の行方を見守る。
周りの生徒達も沈黙し、二人に注目が集まる。
一方颯都の脳裏には、よく似た男がチラついていた。
最も憎悪し、嫌悪している男。
その記憶と重なり、ふつふつと嫌悪感が込み上げてくる。
「誰がお前なんかの所有物になるか」
立ち上がり睨みつけると、食器を片付け食堂から立ち去ろうと生徒会の間をすり抜けた。
颯爽と肩で風を切り、その風が馨しいニオイを運んでくる。
嗅ぐだけで刺激の強いニオイに、翔と京弥の身体は酔いが急激に回ったかのように、くらりとフラついた。
フラつきはしなかった者も、その強烈な香りに魅せられる。
上級の純血種だけに使える"魅了"。
颯都は血に秘められた強すぎる力が、フェロモンとして溢れ出てしまっているのだ。
自分の血のニオイは解らないので本人は気づく事は出来ないが。
翔は慧に支えられ、京弥は自力で踏みとどまる。
呆然とする生徒会一行を気にせず、食堂から出て行こうとする颯都を雪斗は追い掛ける。
「あっ…颯都さん、待ってください!」
バタン、と扉が閉まりようやく沈黙を破った双子が叫んだ。
「すごーい!なに今の!?」
「すげー!なんかヤバい!」
「…彼は何者なんですか?」
「…さぁね~、分かるわけないじゃん。
生徒会が総出で調べてもなんっにも出てこないんだからさ」
京弥の問いに、答えではない返事を返す昶。
赤いライオンは、獲物を見つけた肉食獣の眼で扉の方を見つめた。
(絶対モノにしてやる)
(覚悟しておけよ?…五十嵐颯都)
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