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target2-13.クラス入り

形のいい唇が、サラサラと濁す事なく言葉を紡いでいく。 艶のある低音の声が織りなす演説がホールに響き、皆がそれに聞き惚れる。 「(……やっぱりかっこいいな…)」 雪斗も例外ではなく、遠目でも分かるその姿に頬を染めて見惚れていた。 ぽーっとしている内に挨拶は終わり、一礼をしてステージから段を降りていく。 生徒会の横を通り過ぎようとした時、意味ありげに颯都を見る璃空の視線と目が合う。 颯都は鋭く睨みつけてから横を通り過ぎた。 それから式は滞りなく進んでいき、各教室へ移動になった。 誘導するアナウンスでぞろぞろと生徒が移動していく中、列に続こうとしていた颯都に肩に逆向きの力が働いた。 「おーっ、五十嵐!お前やるなぁ! 即興でやったにしてはなかなかだったぞ!」 近い場所でテンションの高い大声が聞こえ、自分の肩に手を回している相手を颯都は見やる。 「…どうも」 「今日は初登校だから俺と行くぞ~」 先導する琉生の後に颯都は続く。 「つーかお前、あの様子じゃあ生徒会並にモテるぞ」 「男にモテても嬉しかねぇ」 「っつても、ファンクラブは勝手に出来るだろうなー」 「……ファンクラブ?」 聞き覚えのない言葉に、眉を顰める。 「人気ある生徒に好意寄せてる奴らが集まった組織だ。ファンクラブってより親衛隊だな」 「其れの何処が問題なんだ?」 「お気に入りの生徒を守護する為に、過激な行動に出る奴もいる。 近づいた奴を暴力行為に遭わせたり、襲わせたり色々な」 「(其れを管理するのも、俺の仕事か…)」 粗方説明は受けたが、それをどういうものにしていくかは自分に掛かっている。 具体的な方針を考えておこう、と颯都は思った。 「なぁ、五十嵐」 思考を中断させ前を行く琉生を見ると、もの凄い笑顔で颯都を見ていた。 「敬語、取れたな」 ニッと悪戯好きの子供のように笑う琉生に、苦い顔をしたままため息を吐いた。 どうも苦手だ。 いくら距離を取っても距離感を感じさせない琉生に、いつの間にかペースを飲まれている。 「別に。そういうのが性に合わないだけだ」 悟られないように振る舞うのが癖になっている颯都は素っ気なく返す。 「ほお~。 (…素直じゃないヤツ……)」 話しをしている内に教室に着き、琉生が扉を開け「おう、みんな席に着け~」と言いながら教壇に立ち、生徒は着席した。 何も言われなかったので颯都もそのまま入っていく。 「おい、あいつ今日首席挨拶してたやつだろ!?」 「どうりで見たことないと思ったぁ、あんなイケメンなかなかいないもん!」 「あ、あの人、白瀬くんと噂されてる人だ!」 ひそひそ話す声は止まず、颯都に視線が集中する。 「盛り上がるのもいいが、編入生を紹介する!五十嵐」 隣の琉生から目配せされた颯都は、静かに口を開いた。 「五十嵐颯都」 名前だけ名乗るという無愛想な挨拶だったが、それが逆に興味をそそられたのか、はたまた噂と注目の標的になっている所為か、話し声はヒートアップした。 「声もかっこいいし、素敵~!白瀬くんが惚れちゃうのもわかるかも…」 「バッカ、ただの噂だろ?」 「それより五十嵐って、どっちだろ!?」 「あのSっぽい目つきはタチでしょ!」 「ファンクラブ作っちゃう!?」 「(……五月蝿ぇ…)」 あまりのうるささに颯都の眉間に皺が寄る。 収まる様子がないざわめきを見かねた琉生が苦笑する。 「あんまりはしゃいで困らせるなよー。 じゃ、五十嵐の席は…」 琉生が教室に目を走らせ空いている席を探していると、さっき入ってきたドアがガラッと開いて颯都は視線を向ける。 入ってきた赤髪の目立つ男子生徒が颯都のしかめっ面を見てニヤリと笑う。 「………」 横を向いた事を盛大に後悔したがそれより、暫くは此奴と同じクラスに固定されるのかと思うと重いため息を吐きたくなる程だった。 「今お出ましかぁ?二階堂~」 普段授業に出ない生徒会長・璃空が入ってきた事により、ざわめきがさらに色めき立ったものへと変わった。 「(…動物園か、此処は)」 思わずため息が出る。 「西園寺、コイツの席は?」 「おい、離せ」 いきなり手をがっちり掴まれ、振り解こうとすると指を絡められて颯都に悪寒が走る。 悲鳴がさらに色濃くなるが、もうどうでもよかった。 「今決めようとしてたとこだ」 西園寺は口角を上げて笑う。 「決まりだな」 「勝手に決めんな」 騒ぐ外野と颯都の抗議の声に構わず席を擦り抜け、一番後ろの窓際から二番目の列の最後尾に璃空は座る。 面倒になってきた颯都はため息混じりに窓際の席に座った。 「じゃあ、出席取るぞ~。よし、全員いるな~」 適当な琉生の声を聞きながら、後頭部に刺さる視線を窓の外を見てやり過ごす。 生徒は今度は颯都と璃空の噂話で盛り上がり始めていた。 (クラス替え、何時だろうな…) (この俺様から、簡単に逃げられると思うなよ?)

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