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target3-4.風紀委員会と生徒会

「おっーす、五十嵐~。 お、白瀬も一緒か。丁度よかった」 朝、朝礼を行うホールに向かう途中で明るく間延びした声が前を歩く二人を呼び止めた。 「何か用ですか」 すぐに琉生だと分かり呼び止められる事にいい経験がない颯都は面倒そうに振り向く。 「そんなあからさまに嫌そうな顔するなよ。今日はなにも、雑用を押し付けるつもりじゃない」 苦笑しながら、二人の方に歩いていき交互に顔を見てニヤニヤと笑う。 「一番連まなそうな二人組が一緒にいるのは、そういう訳かぁ~…」 ニヤニヤニヤ。 変な笑顔を貼り付ける琉生が、噂の事を言っていると思った颯都は訂正する為に口を開く。 「別に、同室の誼(よしみ)でそうなる事が多いだけだ」 「へぇ~。ほぉ~」 曖昧な相づちを打ちながらにやけ顔を颯都から雪斗にずらす。 心を見透かされるような金色と眼が合い、雪斗は頬を染め慌てて視線を逸らした。 「大事にしろよ、五十嵐!」 「余計なお世話だ」 肩をポン、と叩く手を振り払い琉生を睨む。 「態々そんな事言いに来たのかよ」 「あぁ、っと。そういえば俺が風紀委員会の顧問になったから。風紀委員会の事も今日公表する」 ついでのようにサラッと告白され、二人はしばし硬直化した。 「いつ決まったんですか!?それに正式な公表は一週間後だって…!」 あまりにも突然すぎる発表に、驚きに大きな眼を見開いて琉生に詰め寄る。 「あぁ、昨日の職員会議で風紀委員設立について聞いてな。 顧問が決定したら今日に合わせて公表出来るだろうって事で俺になった」 「決定事項なのか?」 「理事長の承認があったからなぁ。異例だってのにあっさり決まったぞ」 最初の告白で検討は付いていたが、改めて知らされて思わずため息が出る。 「(和泉さん、最近抜けてないか…? 今度様子見に行くか)」 和泉の様子が少し気がかりになった颯都は心の中で呟く。 「颯都さん……」 声の方向を見ると、雪斗が不安げな表情で颯都を見ていた。 無意識に、雪斗の頭に手をおいて撫でていた。 「大丈夫だ。俺は兎も角、雪斗は簡単に挨拶すればいいだろ」 「そ、そう…ですよね…!」 雪斗は安心すると同時に、撫でられているのが気恥ずかしくなり頬が赤くなっていく。 「お前、ほんと赤面症だよな」 それを見てポンポンと頭を軽く撫でて笑う颯都。 「ち、違います!これは…っ、颯都さん限定って言うか……」 だんだんと俯き加減になる。 声のボリュームも小さくなっていき最後の方は颯都には聞き取れなかった。 「おーい、のんびりしてると置いてくぞ~」 前を行く琉生が振り返って呼ぶ。 「行くぞ、雪斗」 「!…はいっ」 あれから、よく名前を呼んでくれるようになった。 些細な変化だがそれでも雪斗にとっては嬉しかった。 笑顔のまま、駆け寄るようにして後を追いかけた。 歩きながら、琉生は必要最低限の説明をした。 基本的に生徒会と風紀委員会は裏口から入り、ステージ袖の付近に待機。 それ以外はどこに座ろうと生徒会の自由で、大体風紀委員会も同じだと聞くと、どうでも良いが自由過ぎるんじゃないかと颯都は思う。 「裏口はここからな」 言いながら琉生がドアを開け、颯都と雪斗も入っていく。 階段を上がり、ステージ裏に行くと演劇で使うと思われる道具が置かれていて少し広々とした場所に出た。 足音で気付いたのか、生徒会の全員が揃って見ていて、否応なしに視線が合う。 目線が合うと璃空は口元を吊り上げる嫌な笑みを浮かべ、対する颯都は思い切り睨み付ける。 「まさかお前が風紀委員長になるとはな。まぁその方が好都合だ」 言いながら近付いていき、颯都の顎に手を掛け顔を寄せる。 「態度がなっていない犬に躾するのに丁度いい」 低く甘さを帯びた囁き。 嫌悪感が湧き上がりその言葉が終わるか終わらないかの内に顎に掛かる手を叩き、颯都の眼が冷たい色を湛えて璃空を睨む。 「触んな」 璃空の眼が少し驚きに見開かれ、もう一度手を伸ばしかけようとした時にタイミングを見計らった琉生からストップが掛かった。 「はいはい、そこまでなー。 口説くんだったら場所を考えろよ~」 璃空は伸ばし掛けていた手を下ろし、颯都は視線を逸らして逆の方向を向いた。 「ノッケから波乱の予感~?」 止まっていた空気が流れ出し、傍観者だった昶が茶化す。 「惜しかったなぁ~今の!」 「せっかく持ち込めそうな流れだったのにねぇ~」 残念そうに指をくわえて顔を見合わす双子。 「そんな事よりも、勿論公約は決まっているんですよね?風紀委員長さん」 眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、皮肉めいた口調で言う京弥。 「あぁ」 「へぇ、どんな公約なのか楽しみですね。 それが、生徒会の意に反するようなものだった場合は容赦しませんけど」 一々棘がある言い方をする京弥。 颯都は特に気にならないようだったが、雪斗は思わずムッとなりあえて笑顔で言い返す。 「生徒会と風紀委員会は元々独立した組織ですし、あまり干渉し過ぎるのもどうかと思いますけど」 柔らかだが反論をさせない言葉と雰囲気で、笑う雪斗。 京弥も言葉飲み込み、横を向いて眼鏡を押し上げた。 友好的とは言えないやり取りを見守っていた琉生は苦笑する。 「仲良くなれとは言わないが、今の内に慣れておけよ~。同じ仕事をする事の方が多いんだからな」 「「は~い!」」 元気よく返事をした双子、それ以外は押し黙る。 するとホールにメロディが流れ、司会と共に朝礼が始まった。 (賽は投げられた)(物語の幕が上がる)

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