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target3-5.公約
壇上に立つ颯都に無数の眼が集まる。
初等科から高等科の全校生徒と教員が新しい風紀委員長の誕生に注目していた。
痛い程の沈黙で静まり返るホール。
それらを怯まず堂々たる風貌で受け止めながら、口を開く。
「この度風紀委員長に任命されました、五十嵐颯都です。
より良い学園生活を目指し、風紀委員会設立に際しての公約を項目上に纏めました。
一つ、学園内風紀の清浄化。
紊乱したした風紀を外観・内観共に清浄にします。
二つ、委員会、部活動の活動管理。
活動の支援又は処理を行います。
三つ、親衛隊、ファンクラブの徹底管理。
暴力的・非道徳的な制裁が行われていないかどうか監視し、行われている場合は処分を行います。
四つ、吸血行為・暴力行為・性行為の禁止。
学園の風紀を乱しかねない行為を行った者は粛正します。
以上の項目を公約とし、安全且つ衛生的な学園生活を保障します」
メモ用紙を用意せずに真っすぐを見つめ、言葉を発する凛とした姿には説得力があった。
それはもう決定事項なのだと、誰しもに感じさせる程の統率力。
圧倒され、魅了される。
やはり、人とは違う何か持っていると琉生は実感した。
空間を塗り替え、自分のものにしている。
次の言葉を心待ちにする生徒たち。
颯都は再び、口を開く。
「学園内の風紀の客観性を貫く為、俺に関するファンクラブや親衛隊等の活動は一切禁止します。
此でも作られる動きが有った場合は、速やかに粛正します」
その言葉にどよめきが起きた。
前例がないのだ。
ましてやもう作られる動きがあった矢先に一切の禁止が言い渡され戸惑いが広がる。
そんな中で颯都は続ける。
「其れでは以上を以て挨拶とさせて頂きます。
ご静聴有難うございました」
一歩下がって一礼すると、拍手も起きるがざわめきで大分かき消された。
颯都は静粛を生徒たちに訴えるアナウンスの声を後ろに袖に戻る。
「颯都さん…」
雪斗は色々言いたい事があるような顔をしていた。
「次だろ。落ち着いて行けば大丈夫だ」
「…はい」
「続いては、風紀副委員長の白瀬雪斗さんからの就任挨拶です」
頷くと、丁度アナウンスが入りステージへと歩いて行った。
それを見送ってからステージ裏に戻ると、琉生と生徒会からの視線を受ける。
「全く、面白いな…ますます欲しくなった」
「…遣れるもんなら遣ってみろ」
璃空はぎらついた眼で颯都を見、颯都は冷笑を送った。
スピーチが始まり、スピーカーから雪斗の声が流れ出す。
颯都はそちらに気を取られ、背後からの気配に気付けなかった。
「っ!」
「ったぁく、滅茶苦茶やるなぁ五十嵐は~!」
「止め…離せ…ッ!」
突然後ろから抱き込むようにして琉生は颯都の頭を撫で回す。
抵抗していると真剣な表情で覗き込んで来た琉生と眼が合う。
「お前を妬んで攻撃してくる奴らだっているかも知れない。あぁいう言い方は逆効果だぞ」
「んな事解ってる」
邪でも寵愛を受けていた方が敵を増やさないのは明らかだ。
しかし、性に合わないのだ。
愛でられるより、嫌われる方が自分には合う。
テンポの良い掛け合いを面白いと思ったのか、生徒会は傍観に徹している。
「五十嵐は只でさえ注目を集めてる。襲われて喰われたらどうする」
「返り討ちにする」
「お前なぁ~…、ちゃんと自分の危険性解ってるのか?」
「…何の事だ」
「リスクを冒してでも五十嵐を欲しいと思う奴らは山ほどいると思うぜ、ここには」
ここ、で靴の爪先で地面をトントンと蹴る。
琉生の言葉が何を指すのか理解した颯都は、胸焼けするような感覚に眉をしかめた。
「男をヤる趣味はねぇ」
「それもあるが、逆かも知れねーだろ?」
「有り得ねぇよ」
「…ほぉ~?」
即否定する颯都に、片眉を上げ琉生は笑みを浮かべた。
「自分は受けにはならないって?」
「…当たり前だ」
颯都には男色の趣味もなければ、男に押し倒されるような性でもない。
笑う琉生にどこか馬鹿にされているように感じ、颯都の目付きが鋭くなる。
それぞれの格好で寛ぎ、傍観したり暇つぶしをしていた生徒会のメンバーだったが次の瞬間、全員が驚きの表情でそれを見た。
「えっ……マジ?」
呆然と、昶は呟く。
興味がなさそうに見やっていた京弥と、玩具を取り上げられた子供のように不満げな表情だった璃空も目を見開いた。
翔と慧は、同時に息を呑む。
「んッ……!?」
琉生に頭を引き寄せられ、唇を塞がれた颯都が一瞬何が起こったのか分からずに目を見開いて固まった。しかし我に返り、琉生を突き飛ばそうと肩を押す。
するとさらに頭を押さえ込まれ、どうにか呼吸をしようと口を開くと同時に琉生の舌が入り込んだ。
「んんッ……は、っ」
琉生は逃げる舌を何度も深く絡め、周囲に見せ付けるように角度を変えながら颯都の口内を堪能する。
混ざり合った唾液が口端を伝った。
抵抗しようとしても力が入らず翻弄される颯都の姿は、普段の隙のなさとは逆の色気を発していた。
誰かが唾を呑む音が大きく聞こえる。
琉生は漸く唇を解放すると同時に身体を颯都に突き飛ばされてよろめく。
「はぁ…ッてめぇ…何のつもりだ…!」
息を荒げて口端に伝う唾液を袖で強く拭い、琉生を強く睨んだ。
それを受けてなお、ニヤニヤと悪びれもなく肩を竦めてみせた。
「だぁから、言ったろ?気を付けろって。
五十嵐は言っても聞きそうにないからなぁ。直接指導するのも教師の役目だろ~?」
その態度に、颯都は脳内で何かがプチン、と音を立てて切れるのを感じた。
握った拳に力が籠もり、気付けば身体が動いて琉生の頬を容赦なく殴り飛ばしでいた。
0.2177秒、瞬殺。
あまりの早さに、璃空以外は何が起こったのか分からずに、いつの間にか琉生が床に転がっている場面に変わっていた。
「ふざけんじゃねぇ…エセ教師が」
低く吐き捨てる声と、絶対零度の視線。
「……どういう状況ですか、これ…?」
戻ってきた雪斗が、呆然と呟く。
「別に、何でもない」
颯都は本当に何事もなかったという表情で雪斗に言う。
「えぇっ…と……」
状況把握が上手く行かない雪斗は視線をさ迷わせ、昶や京弥に説明を求める視線を送ったが逸らされた。
とりあえず地面に転がっている琉生の横に屈む。
まるで思い切り殴られたような、痛々しい痕。
それに何とか見ないフリを貫き、腫れていない方の頬を叩いてみる。
「だ、大丈夫ですかー……?」
手のひらがぺちぺちと薄い音で琉生の頬を叩いたが、反応はない。
はっ、と雪斗は息を呑んだ。
「ま、まさか……死んで」
「死んでねぇよ。気を失ってるだけだ」
それらを横目にツッコむ颯都。
「あ、それじゃあ保健室に行って手当てをしてもらわないと…!」
しかしそれを手伝おうとする声はなく、颯都は無言で背を向ける。
「行きますよね?颯都さん」
「…何で俺が、」
「行きますよね?」
威圧感を増した声が颯都に突き刺さる。
あれは、自業自得だ。
誰もがそう思って手は貸さなかったが、雪斗一人では琉生を別塔の保健室まで運べない。
「(…此も自分で巻いた種か)」
一つため息を吐いてから、琉生の腕を自分の肩に回し、脇を持って負荷が掛からないように立たせる。
「え、僕も手伝いま…」
颯都一人に運ばせるつもりではなかった雪斗は少し慌てたが、運ぶ分には一人で充分な位に安定していた。
「保健室に連れて行くだけだからな」
「…はい!」
無愛想に言う颯都と、にっこり笑顔になった雪斗。
そして誰一人として動けない生徒会を置いて、二人は去って行った。
「…だから何物なのさ、五十嵐颯都って……」
昶が未だ呆然と呟く。
(やっばー!)(やっばー!)
(ねぇ見た!?)(うん見た見た!)
((僕らの次のターゲット、決まり♪))
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