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target3-10.赤い部屋

放課後、早速書類整理に取り掛かりある程度を終え、その中の生徒会宛の書類を見つけた颯都は生徒会のドアの前に来ていた。 赤い重厚感のあるドア。 …サッと置いて戻ればいい。 入りたくない気持ちをぐっと堪え、ノックをするとドアノブに掛けた手を引いた。 赤いテーブル、ベルベットの深紅のソファ。 赤で構成された部屋は、颯都の嫌悪する色。 赤黒タイルを早々とした足取りで歩く。 幸い中には誰もいないようだ。 面倒な事にはならないだろう。 多少気を緩めた瞬間。 「あー!会長のお気に入りだ!」 「ホントだ!会長のお気に入り!」 「っ!」 突然、両サイドから颯都に腕が巻き付いてくる。 気配を感じなかった颯都は油断した、と思いながらもその正体を見る。 「「ねぇ~、遊ぼーよ!」」 それは、同じ声を揃え、颯都を無邪気な顔で見てくる双子だった。 絡み付く手を解き、颯都は双子に言う。 「遊んでる暇はねぇんだ。悪いな」 すると双子は唇を尖らせて頬を膨らませた。 「えぇ~っ!つまんな~い」 「ねぇ、遊ぼーよ、遊ぼー!」 ワイシャツの袖を好き勝手に引っ張る双子は、承諾する限り離す気はなさそうだ。 「判った、少しだけな」 颯都が承諾を示すと、パッと喜びの表情へと変わる。 「僕の名前は翔!」 「僕は慧!」 「覚えてね!」 「覚えた?」 「あぁ」 右左から交互に言われても特に動揺する事なく颯都は頷いた。 少し踊るようにステップを踏んで距離を取ってから、手を繋ぎ手を広げた。 「「双子マジ~ック♪」」 愛嬌のある笑顔で、手を繋いだままクルクルと回る。 それはだんだんと速度を増し、分身したようにさえ見えてくる。 何周か回ったあと、ピタッと止まって満面の笑顔を見せる。 「「誰がどっちだ~?」」 シャッフルされた双子はまるで鏡に映し出したようで全てが一致していて、見分けるのは容易ではない事は一目瞭然だ。 「ヒントはね~、僕が慧だよ!」 「うそうそ、僕が慧でこっちが翔!」 「なんてね、慧って言ってるのが翔だったりして!」「さぁ、誰がどっちだ~?」 混乱しそうなヒントを出すと、颯都に答えを促す。 「右が慧、左が翔」 問いに迷う事なく答えると、同時に栗色の眼が開かれる。 「うそ…当てられちゃったー!」 「なんでなんで!?」 「似てはいるが全然違うだろ。入れ替わっても表情や仕草で判る」 あっさり見分けられて驚く双子に、思ったままの事を言うと双子が一瞬視界から消えて颯都に飛び付いてきた。 「すごいすご~い!」 「双子マジックを見破ったのは、会長以来だよ!」 興奮して抱きついてくる様子に小動物的なものを颯都は、無意識に頭を撫でていた。 撫でられている双子は心地良さそうに目を細める。 まるで微睡む猫のようで、颯都は弟がいたらこんな感じなのかと少し頬が緩んだ。 そう感じていたのは、双子も同じようで。 「僕、会長と似てると思ってたけど違うかも~…」 「うん、会長は鬼畜だけど…兄さんみたい」 「じゃ、俺はそろそろ」 何となく懐かれ始めたと感じ戻ろうとするが、抱きついて離れない。 「やーだ!行かないで颯都お兄ちゃん」 「もっと遊ぼーよ!颯都兄~」 「あのなぁ、俺はお前らの兄貴じゃ…」 引き止める腕を力を入れれば振り解けるが、何となくそれが躊躇われていた時生徒会室のドアが開いた。 颯都が一番会いたくない人物と眼が合う。 「何処にいるのかと思えば…俺に会いに来たのか?」 愉悦の笑みを湛え、颯都に歩み寄る。 緩んでいた拘束から抜け出し、手に持った書類を突き付けた。 「自惚れんな。書類届けに来ただけだ」 しかし璃空は書類には手を伸ばさず、伸ばされた颯都の手を自分の元へ引き寄せた。 唇が重なり、書類が床に落ちる。 しかし一瞬で璃空の肩を突き飛ばし、口元を袖で拭いながら鋭く睨み付けた。 それを璃空は笑みをで返し、唇を舌で舐める。 味わうような仕草に颯都の身体に生理的嫌悪が走り、背を向け去っていく背中に璃空が声を掛ける。 「いつでも来るといい。歓迎する」 「…誰が好んで来るかよ」 顔だけ振り向き、眉をしかめて睨むと颯都は生徒会室から出て行った。 「あ~あ、振られちゃったねぇ会長」 「会長が振られる所なんて初めて見たー!」 慧は口元をにやつかせ、翔は先程見た光景に興奮覚めやらぬ様子。 璃空は口元に笑みを浮かべたまま床に散らばった書類を拾う。 「これからじっくりと教え込んでやるさ」 「ほおほぉ~!楽しみだね~翔!」 「目が離せないCPだねぇ~、慧!」 自信に満ちた璃空の表情に、2人は嬉々として顔を見合わせた。 「お前らも珍しく懐いてたな。餌付けでもされたか?」 言いながら奥の会長席に座る。 「餌付けなんかで僕らは懐かないよ~だ!」 「あのね、双子マジック見破られちゃったんだ!」 双子の言った内容に璃空の眼が驚きで僅かに開く。 「アイツが見破ったのか?」 「「うん!」」 同時に頷き、それに~と付け加える。 「颯都兄は優しいもん!会長と違って~」 「颯都お兄ちゃんはいいお兄ちゃんだもん!会長と違って~」 楽しげに笑いながら璃空との違いを強調する双子に、璃空は別の意味で笑った。 「本当に…面白いな」 自分を拒絶出来るモノはいなかった。 最初は拒絶したとしても、魅了を使えばすぐに自分しか見れなくなるはずだった。 しかし、颯都は難なく拒絶する。 その度に嫌悪感と冷たさを孕んだ眼で睨んでくるのが、堪らなかった。 堪らなく…欲しいと思った。 (解らないモノ程欲しくなる) (手に入らないモノ程…)

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