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第209話

迫力のある舌打ちをしたのはもう何度目か。しかしここに咎める者はいなく、ただひたすらに長い廊下に響き渡るだけ。イラつきのまま歩いていた嵩音は今自分がどこにいるかなど考えていない。考えたところで自分の島、生徒会の寮のどこかで今は夏休み、誰もいるわけないのだから。 チッ! 治まらない感情にまた、音が響く。 「それ、生徒の前では控えて下さいよ?」 「あ?」 誰かいたのか。どうでもいいが…… 振り返れば封筒を小脇に抱えた彼、伊瀬 昂科が困ったようにため息を吐いたのだった。 「なんでお前がいるんだ」 「なんでも何も、ここは僕のフロアですから」 「は?……てことは、ここ3階か」 「えぇ、その通りです。嵩音は何故こちらに?」 「別に」 「別にって……エリカ嬢ではないんですから。まぁ、良いです。ソファで休まれます?」 会話するうちに少しは考える余裕が出来たらしく、あぁ。ぶっきらぼうだが相手をしっかり見て頷いた。 彼について歩き、扉を開きどうぞと招く声にまた一つ頷き中に入る。 頭の端では、これで良いのだと、今すぐ戻っても気まづいだけなのだから……と自分を肯定する声が聞こえていた。 ××× 別にって、覚えてる……?

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