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第210話
嵩音はいつ帰省を?
リビングで寛ぐ彼にコーヒーを持って来た伊瀬は向かいに座り徐に話しかけた。先ほどの別に発言を受け苛ついていた理由について問いかけるのを一旦横に置いたのだ。そして生徒会の仕事に一段落つけた今、この話題が妥当であると考えた。
しかしこの話題がもしかしたら怒りの原因かも知れないと言う可能性もある。
「あ?帰省?別に考えてねぇな」
二度目の別に。
一瞬身構えた伊瀬だが今回は特に苛ついた様子もなく、杞憂だったかと安堵した。
さすればこの話題で怒りを根から鎮め、その後で何があったのかゆっくりと聞こうではないか。瞬時に考える。
「こちらで何か予定でも?」
「いや、特になかったんだが、あいつが残って……チッ」
「………」
やはり予期せぬ所に地雷は埋まっているらしく、見事にこの話題で踏みぬいた。
仕切り直そうにもここから急に話題を変えるなんて技、身近で持っているのは西埜か鶴来くらいである。
ふぅ……一呼吸置き、原因を聞こうと覚悟を決めた。
そんなに大層な覚悟ではないのだが、如何せん彼の怒りは着火が速く火力も強い為鎮まりにくい。出来れば対処の上手い人間にこういうことは任せたいと思っている。
何故ここは生徒会室でないのかと珍しく頭を抱えた。
要するに、面倒くさい男なのだ。
この嵩音潤冬という男は……
「それで、その苛つきの原因となった彼と何があったんです?」
「あ?」
どすの利いたこの一言に全てが詰まっているといっても過言ではない。
敢えて続きを付けるとすれば、あ?お前に言う必要あんのかよ。
そんなところではないだろうか。
自身も嵩音に負けず深いため息を吐いてしまいそうだと奥歯をグッと噛みしめた。
「嵩音、何があったか知りませんけど、夏休みは始まったばかりなんですから、早いうちに仲直りして下さいよ」
「仲直りって……喧嘩する仲じゃねえ」
珍しい小声の返事に、ではどんな仲なんでしょうね?その彼の為に帰省を先延ばす関係って。
思いはしたがこれ以上怒らせる訳にもいかず、胸の内に仕舞う伊瀬であった。
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