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第211話
そう言えば。何か思い出した彼は不機嫌なままの嵩音にめげずに話しかけた。共に過ごす中、知らずしらず彼にも培われつつある精神力をまだ把握しきれていない。
声をかけられた方の機嫌はやはり短時間で治ることなく眉間にしわを寄せたままソファ目いっぱいに座り目も合わせようとしない。
「……なんだ」
「いえ、ある人に頂いたお菓子があるのですが、いかがです?」
「ある人?こんな時に、なんでまた」
「えぇ、まぁ……そのですね。先日その、ある人にまだ帰省しないと告げたら、じゃあお中元だとここ数日で大量にお菓子を…一人では食べきれないと言ったんですが断り切れず……」
押しが強いと断れない日本人気質な彼はよくこういう目にあっていた。
優しいのか、はたまた付け込まれやすいのか……生徒会にしては少しばかり心配になる性格だ。
「で?」
「え?あ、ですからまだここにいる嵩音に少し貰って頂けないかと思いまして」
「ふーん」
先ほどよりも柔らかくなったように感じる態度に、出来ればこのまま甘党の彼にはお菓子で機嫌を早急に治して貰い、平穏な夏休みを始めたいと思っていた。
なんせ生徒会の次は私用で大忙しなのだから……
彼もまたここの生徒であり、生徒会になれるほど強い後ろ盾を持っているのだ。そこから求められる力を今からつけなくてはならない。休んでいる暇は殆どない。
ローテーブルに準備をしながら、食べきれない分は持ち帰って貰い喧嘩をした彼にも……言おうと思い、しかしその彼の話題でまた機嫌を損ねるといけないと口を噤む。
気を揉みすぎて明日、胃が痛くならなければいいけど。と、密かに心配していた。
「ケーキなどは今日頂いたものですので安心して下さい。飲み物はコーヒーのままで?」
「……あぁ、それでいいが…」
「どうかしました?」
「いや、お前の知り合い……頭大丈夫か?」
「………」
テーブルの端から端まで並べられたケーキに焼き菓子、和菓子を見て本音が出てしまう。しかし伊瀬自身も何も言えないでいた。いや、同じことを思っていた。
何故ならこれ以外にも並んでいない物がまだまだあるのだ……
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