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第212話

伊瀬の策略通り抱えきれない・食べきれない程のお菓子の入った紙袋を持たされ、自室の前で立ち止まっていた。 両手が塞がり入れないのではない。怒りは冷めたが今度はバツが悪いと扉を開けられずにいるのだ。 中にはまだ彼が、いや、彼らがいるのだから……自分優先の嵩音には珍しい言動その2である。とは言えこの扉を開けなければ今日からの安眠の保証はなく、また一生自室に入ることはできなくなる。 「………いや、ここ俺の部屋だし」 考えた末、ここの主は自分だ。自分がここのルールだ。 一生入れないってなんだよ?意味わかんぇ、苛つく。 結局はいつもの嵩音だった。 イラつき雑にノブに手を掛けたが回す前にガチャと音が鳴り急に扉は迫ってきた。 「――ッぶ!」 「――ね!……え?」 ゴツッ 鈍い音が鳴り、扉の奥の人物は茫然としていた。 無理もないだろう。目の前には可愛い柄の紙袋をいくつも持ち、鼻と額を赤くした嵩音がいるのだから。しかも眉間に深い溝を作り正面を見据えて。 「……じゅ、じゅんじゅんお帰り!早かったね!機嫌は治った?ていうかその花柄の可愛い袋どうしたの?誰に貰ったの?もしかしてお詫びにじゅんじゅんが自分で買ったの!?ぷーっ!かぁわぁいぃいぃ!中身は何!?お菓子?じゅんじゅんほんっと甘いの大好きなんだからぁ!あ、僕もうちょっと居ようかな!何買ったのか気になるし!れおちんいいでし――」 「その前に謝れくそちびがぁああ!!」 「キャー!火山噴火だぁああ!あやち、中に避難するんだ!」 「そうはいかねえ!」 「ギャーッ!」 閉めようとした扉に手をかけ鬼の形相で追いかけてきた彼に、2度目の悲鳴は冗談ではなく、本気だった。のちに鶴来はそう話した。

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