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第214話
言われた通り黙っているとチッ、舌打ちが聞こえそれから暫くして悪かった。やっと聞こえる声で潤冬さんは言った。
「あ……」
顔を上げるとまた目が合って、でも視線は柔らかくなっているから気まずい感じはなく、表情から真剣に考え言ってくれたのだと分かる。それなら尚更、俺も言わないといけないんだ。
潤冬さんが怒るのも無理ないんだ。何故なら、飽きたからと言ってその人が真剣に行っていることに対して軽はずみに発言してはいけないから。
その人の今までの苦労を知りもしないで、言って良いことではなかったんだ。
「潤冬さん、おれも――…」
「ひゃーー!じゅんじゅんが謝った!?うそ!本当に謝ったんだけど!!れおちん凄くない!?すごいよ!すごいよね!ね、あやち!」
「ん。すご…ぃ」
「きょーちゃん達にも言わないと!!あ、月ちゃん先生と竹ちゃん先生にも言って!あ、あと新聞部の部長さんと、えっとえっとあとは……」
勝手に話を進める鶴来先輩に嫌な予感しかしないんだけど……
ほら、なんかもう潤冬さんの眉間に皺が寄ってるしなんだかひじ掛けに置いてる拳も震えているような……
もう忘れてしまったのだろうか。戻って来た彼に散々っぱらマシンガントークを決めて怒らせた数分前を。いやいや、もしかするとおちゃめな彼のことだからワザとやっているのでは?
いやしかしさっきは本気で悲鳴を上げたと言っていたし、どっちなんだ。
俺はもしかしてこの2人に遊ばれているのか?
「あ、れおちんのクラスの人にも言わないとだよね!えっと、クラス委員長と放送部もいたっけ?あ、でも新聞部の人がいうか――…」
「だからいい加減にしろよクソチビがぁぁぁ!!」
「キャ―!じゅんじゅんがまた火山噴火だ!あやち、逃げるよ!」
「ん」
「待てこら逃げんじゃ――」
「あっ」
「……あ?」
2人を追いかけてまたいなくなりそうで、次はいつ帰って来るのかとか、もしかしたら帰ってこないんじゃないかとか、来たばかりの部屋で待ってるのはちょっととか、まだ俺は謝ってないじゃんとか、色々考えてたら、直後目の前を駆け抜けようとした潤冬さんの服を反射で掴んでた。
「なんだ?」
「え、あ……いや、その……」
今度は俺のバツが悪くなって、余所を向く。
服は離したけど、彼がいなくなることはなかった。
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