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第216話
「お風呂、ありがとうございました」
「あぁ」
テレビでも観て寛いでいるかと思えば、本なんか持って集中している様子だったから邪魔にならない程度に声を抑える。本当は今あったことを声を大にして言いたい叫びたい暴れたい問い詰めたいんだけど出来ず両手に持ったタオルの端を握り耐える。
でも言いたい……
「俺も入るか。ん?入る前より疲れてないか?」
「……」
俺の握ったタオルの端が震える。
「なんだ?使い方でも分からなかったか?お前の所と同じだろう?」
「……じゃない」
「あ?なんだって?」
「全然同じじゃないですよ!」
「うおっ!?」
「脱衣所とお風呂場の仕切りがなんで上半分ガラス張りなんですか!?そもそも一人であの広さはどう使えばいいんですか!?ハッ!床に、寝る?いやいやそれよりも照明の色が変わるってどうして!?いります?あの機能。それにジェットバスに泡ぶろになって……俺は終いには浴槽自体回るんじゃないかと全部のボタン押しました。でも、回らなかった」
「回るぞ」
「え!」
潤冬さんの発言に詰め寄るとブッと笑われ横を向かれた。
騙された!!!
「ムキ―ッ!騙したな!!俺の純情を返せ!明日の楽しみにしようと思ったのに!」
言いながらボカボカ容赦なく胸を殴り、シャツを掴んで前後に引っ張りムカつきをぶつける。
凄い楽しい気分が台無しだ!!もう怒った。さっきの残りのケーキ食べてやる。
冷凍庫に見つけたアイスも食べてやる。でもってベッドに大の字で寝てやるからな。
「アハハ!悪かった、そんなに怒んなって。すげぇ喋るからちょっとからかっただけだろ?」
「それでも俺は真剣に!」
「分かったわかった。じゃあアレはしたか?」
「また騙そうったって、駄目ですからね!もう何も信じません!」
「水中照明は変えたか?」
「し、しました」
「それなら、照明落として窓は開けたか?」
「え。でもコンクリートの壁で、窓の外なんて……」
ニヤニヤした顔にまた騙された!
怒りにまた殴ろうと振り上げれば今度はパシッと手を止められ、騙してない。と続いた。
「脱衣所にリモコンがあるんだよ」
「え!あれってテレビのリモコンじゃなくて!?」
確かにリモコンは置いてあった。でも風呂場にテレビもあったからそれのだと思って何も触れなかった。しくった。
今から見に行くしかない。
「あぁ、今から俺が入るから、見るなら明日な。それとも一緒に入るか?まぁそうなると、夜景をゆっくり見られる保障はないけどな」
「誰が入るか!俺はケーキを食べる使命があるんだよ!さっさと一人で入って来い!!」
「ブハッ!ククッ…面白すぎ…あとな…」
「なに!まだなんか文句あんの!?」
「文句じゃねぇよ。怒りで敬語、忘れてるぜ」
「ハッ!」
やっちまった。
慌てて口を抑えるとワシワシ頭をかき混ぜるよう荒く撫でられ、それから言い逃げ去れた。
「ここには俺らしかいないし、それでもいいんじゃねえの?」なんて。
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