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第221話

ふかふかのベッドで薄れていく意識の中、部屋に戻ってくるまでのことを思い出していた。 中学時代に歩いていたコンクリートとは違い、涼しくて歩きやすい。サクサクと一歩進むごとに芝生が音を立て気持ちいい。スマホの画面に映る光に上を見ると、どこまでも深い濃紺の中にキラキラと光が浮かんでいて、思わず足を止めてしまった。 本当は、彼の言う通り、ただアイスを探していただけじゃないんだ。 少しだけ上を、貰ったピアスによく似た夏の夜を眺めていた。 「星は、覚えたことなかったな……」 向こうにいた頃も星座までは勉強しなかった。そりゃあサイエンスに必要なことは覚えたけど、それ以上は何もしていない。夏の大三角形やそれにまつわる話は多少知っている。だが細かい位置や正確な名前などの専門知識はない。 「それ、教えてあげようか」 「え?……え…」 聞こえた声に顎を下げると居たんだ。さっきまで一人だと思っていたのに、人が……信じられず夢かと思ってしまった。 あぁ、もしかしたら本当に夢幻なのかも知れない。だって暑いし夏だし。それに外だし。 これはきっと蜃気楼。 「ハハ、そんなに無理して驚かなくていい、とてもらしくないよ。それに、本当は気付いているくせに、何も言ってこないなんて悪魔のように酷くて狡いよ……ね?」 「夢だからか、凄い言われよう……記憶ではもっともっとロマンティックで優しい人だった気が」 「うーん。それなら……」 少し考えてからスーッと両手を前に出し、上を向けた手の平と顔を共に夜空へと上げた。 直後、サーッと風が俺の後ろから吹いてきて、相手の髪を後ろに撫でる。月明かりに照らされたアクセサリーがキラリと光った。 どうするのかと見つめていれば見上げて、れおん。声を掛けられそれに従う。 さっきと変わらない夜空があった。 「どうして空には星があると思う?」 「どうしても何も、星は宇宙に散らばる岩やチリなどが重力で…」 「違うよ。月が出ると星は光を落として見えにくくなる。それは元々太陽の一部だったからだ。じゃあ何かって?簡単だよ。星は、太陽の残した涙の痕なんだ。どうやっても近付けない月との距離に泣いてしまった、太陽のね」 「……」 「月もそれを知っているから今度は雲を残すんだ。太陽の涙を拭う為の雲を。そして雨が降り、笑顔の虹に変えてあげる。永遠の距離は悲しいけど、ちゃんと分かってる。伝わってるよ。ね、れおん」 「ん?むぐっ!?」 ちょっとさぶいぼがでながら話を聞いているとまた呼ばれ、顔を下げだ瞬間、いつの間にか目の前にいた相手に何かを食べさせられた。 小さなガラス瓶を振ると色とりどりの中身がチャリチャリ音を鳴らす。 「金平糖?」 「正解。でもってこれは、君の残した――」 ふっ、と意識はそこで浮上した。 遮光ではないカーテンが太陽の光を室内に招き、眩しくて目が覚めた。 暑くじっとり湿る服とあまり記憶にないけど喉の奥が詰まる苦しい甘さの残る良くない夢の所為で最悪の目覚めだ。頭は冴えて二度寝も出来そうになく、仕方ないからベッドを下りた。 水でも飲んでテレビ見てよ…… ぼんやり思いながら息を吐く。でも、どうしてか上手くいかず、喉の奥の詰まりは取れそうにない。

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