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第229話
「やっぱり僕ね、ハンバーグにはマッシュポテトだと思うの!フライドポテトも良いけど、こっちはハンバーガーに合うでしょ?パテもハンバーグも似てるけど用途も厚さもジューシーさも違うから、各々一番合う食べ方したいわけ。それなのに今日行ったお店ぜーんぜん分かってなかった!僕がむーーってしちゃったのそのせいなの!だからあやちは悪くないしきにしなくていいからね。あ、それよりついこの間のーー」
新しくできたレストランにちょっと早いお昼ご飯を食べに言ったらハンバーグにフライドポテトが付いてきた。むーーってしながらお店を出たらあやちがビックリするほど分かりやすくおろおろしてた。
昔から口数少なくて、態度にもほぼ出ない。僕とは話をすると言っても初対面の人には何を言っているか分からないだろう虫食い単語と文字数。この前もハンカチを拾って貰ったのにあ、としか言わないから代わりにお礼を言ったんだ。
僕だって正直何を言ってるか分からないことが多い。
でもずっと一緒にいるから理解できる。僕らで1人に成れる。
「…あ、む…」
「うん?どうしたの、あやち?」
「に……、ぅ、う……」
「え、なに?」
最近ずっと言ってる。風が吹いた方向をじぃと見て、呟く。
僕には解からない。
どこ見てるの?そっちには何があるの?どうして向こう向いてるの?
どうして?どうして?と、今までなかった言葉が最近よく頭の中に出てくる。
もしかしたら、あやちはもう、1人で一人前なのかもしれない!
春にぃ探しも本当は、一人前になったことを認めてもらうためにしているのかも!
鼻も前より効くし、そうに違いない!
あ。風が吹いた方向ってことは、そっちから春にぃの匂いがするの?
もしかして、この前の時もそう言ってたの?
でも僕が分からなかったから何でもないって首振ったの?
本当にそうだとしたら、確かめないと。
「におい、するの?春にぃの」
「ん」
僕を見て、それから頷いた。
それが分かったら、言うことは一つ。
「あやち!いなくなる前に行かないと!」
「……も…」
「でもって……僕は真っ直ぐ寮に戻るだけだから大丈夫だよ!でも春にぃに次はないよ。あやちも知ってるでしょ?」
少し僕を見つめて、それからまた、頷いた。
走り出す前にギュッと抱きしめられて、お返しする前に背を向けられてた。
「あやち、一人前に成ったね!」
手を振って見送り、スマホを取り出す。画面を見ながら僕も寮に向かった。
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