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第230話

2年前にも確か似たようなことがあった。 場所は学園じゃなく街で、今よりも暗く月明かりの眩しい日だった。 昼は春にぃを探し尋ね、夜はじゅんじゅんの憂さ晴らしに付き合う。僕らはそんな日々を過ごしていた。始めはそうじゃなく、ただ探しに下りていたんだ。でも、見つからない焦りと怒りを抑えきれなくなって、気付いたらそうなってた。 仕方なかったんだ。 だって、多くの人を使う権力もそれを的確に動かす知能もまだなにも身についてないただの子供なんだから。 歯がゆくてどうしようもない感情を上手く発散するにはこれが手っ取り早かった。 きっかけなんてもう忘れちゃったけど、たぶん探し回って門限を過ぎて朝までどうしようかと歩いていたら不良とぶつかってしまった。とか、単純なものだったと思う。 産まれた時から護身で色んなことをしてたから負けることもなくて、逃げ遂せる相手からは族潰しと言われてた。 あの時もいつものように昼は探し歩いて、暗くなったらフードを被ったりオールバックにしたり、派手なアクセサリーを付けて徘徊して、じゅんじゅんを先頭に喧嘩を吹っ掛けてた。 準備運動にもならない。口々に言いながら服の汚れを払っていたらふっとあやちが薄暗い路地を見つめた。 「ケ……、どうしたの?」 「む、ィ……にお……」 「え!待ってどこ行くの!?」 僕を抱えると猛スピードで見つめた先を目指して走り出し、光が見えるとトンっと立ち止まった。 コンクリートの道にオレンジ色の外灯。車は走れない細い場所だった。 未成年では入れそうにはない店の看板がジジッと音を鳴らし、ぼんやり浮かんでいた。 右、左。 辺りを見回し、僕を見てから小さく首を振った。 「よく分かんないけど、戻ろっか」 「ん」 路地を戻ろうと背を向けた。するとチリン、どこかのドアベルが鳴った気がして肩越しにお店を見つめた。でもあやちには言わなかった。 2人だけで入るのは危ないから。 あのお店に入ってたら、いたのだろうか。 こんな気持ちになることも良かったのだろうか。 今よりも楽しく過ごせたのだろうか。 分からない。 でもたぶん、春にぃが見つかったらあやちはまたあの名前で呼ばれて、笑って過ごすんだと思う。 何でも理解できる本当の御主人様だから。 「どこに居ても僕を見つけてしまう。まるで犬みたいだからケン……この僕って、春にぃのこと、だったんでしょ……?」 名づけの親に懐くのが犬の本望なんだ。 ××× 君らはお互いに睦み合ってる。だから、亜睦はムツキね。

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