238 / 291

第237話

ある日、珍しく一人で歩いていた鶴来。向かいからは嵩音が歩いてきた。 「なんだ、今日は一人か」 少し驚いたようにいう。 一拍遅れて返した鶴来。しかしいつもの元気はない。 「1人でも、生きていける」 「まぁ、そうだな」 「絢がいないのに、案外平気なんだ」 「……」 「前に君が言った通り、僕がただ、依存してただけだったみたい」 それだけではないだろう。 数日の彼らを、特に枦椋を見て分かっていたが、嵩音は敢えて言わなかった。 チャンスと思ったからだ。大きく揺れ動き、離れつつある鶴来に自分の入る隙が出来たと。 世界を作る2人。回りに見せない鶴来の笑顔。声。 それを自分に向けさせたい。 思うようになったのはいつからだろうか。 彼らにはああいったが、恋愛感情などあとからいくらでも着いてくる。 だがこの独占欲は誰にも代えがたい。 鶴来がいい。鶴来が欲しい。 沸々湧き上がる熱に浮かされあの日、声を掛けたのだ。 こうも上手くいくとは思っていなかった。無理だと分かっていたから、少しかき乱しておちょくって、このやりきれない憂さを晴らしてやる。それぐらいに思っていた。 だがこうなったのなら、勝ったも同然だ。 慰めこのまま奪い取るのみ。 弱り切った寂しい心を甘い言動で誘い、このまま自分に依存させる。 可愛いじゃないか。言葉一つでこんなに悩み弱る。それならば優しい世界を2人で作ってしまおう。枦椋が離さないのも分かる気がした。 これじゃあどっちが依存しているのか分からなくなって当然だ。 俺もそうなるに違いない。いや、それでいいさ。 独占できるのなら、なんでも。 鶴来を抱き寄せながら来た道を睨み、今は俺の世界だ。お前の出番はねえんだよ。 追いかけて来た枦椋に宣戦布告の刃を向けた。 あれえええ!? やっぱり鶴来先輩のゆるふわ乙女の恋心じゃなくなるよおおお! どうして?どうしてなんだ?? 潤冬さんだから?潤冬さんの言動が怖いから?こんなNTR騒動に発展するなんて誰も思ってないよ! 暁胡さんか!?暁胡さんならふわふわになる?もっと可愛いの読みたいよお! 鶴来先輩のあやちは無口でよしよししたいけど、僕をよしよししてくれる○○も好き! どっちも好きなの!選ぶとかじゃないの!どっちもがいいの!みんな仲良しなの! っていうお花しか飛ばないハッピーな世界線がいいの!! それなのに、なんであんなに殺伐としてるの!? 西部劇じゃないんだからさ!! タンブルウィード転がさないでよ!!

ともだちにシェアしよう!