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第237話
ある日、珍しく一人で歩いていた鶴来。向かいからは嵩音が歩いてきた。
「なんだ、今日は一人か」
少し驚いたようにいう。
一拍遅れて返した鶴来。しかしいつもの元気はない。
「1人でも、生きていける」
「まぁ、そうだな」
「絢がいないのに、案外平気なんだ」
「……」
「前に君が言った通り、僕がただ、依存してただけだったみたい」
それだけではないだろう。
数日の彼らを、特に枦椋を見て分かっていたが、嵩音は敢えて言わなかった。
チャンスと思ったからだ。大きく揺れ動き、離れつつある鶴来に自分の入る隙が出来たと。
世界を作る2人。回りに見せない鶴来の笑顔。声。
それを自分に向けさせたい。
思うようになったのはいつからだろうか。
彼らにはああいったが、恋愛感情などあとからいくらでも着いてくる。
だがこの独占欲は誰にも代えがたい。
鶴来がいい。鶴来が欲しい。
沸々湧き上がる熱に浮かされあの日、声を掛けたのだ。
こうも上手くいくとは思っていなかった。無理だと分かっていたから、少しかき乱しておちょくって、このやりきれない憂さを晴らしてやる。それぐらいに思っていた。
だがこうなったのなら、勝ったも同然だ。
慰めこのまま奪い取るのみ。
弱り切った寂しい心を甘い言動で誘い、このまま自分に依存させる。
可愛いじゃないか。言葉一つでこんなに悩み弱る。それならば優しい世界を2人で作ってしまおう。枦椋が離さないのも分かる気がした。
これじゃあどっちが依存しているのか分からなくなって当然だ。
俺もそうなるに違いない。いや、それでいいさ。
独占できるのなら、なんでも。
鶴来を抱き寄せながら来た道を睨み、今は俺の世界だ。お前の出番はねえんだよ。
追いかけて来た枦椋に宣戦布告の刃を向けた。
あれえええ!?
やっぱり鶴来先輩のゆるふわ乙女の恋心じゃなくなるよおおお!
どうして?どうしてなんだ??
潤冬さんだから?潤冬さんの言動が怖いから?こんなNTR騒動に発展するなんて誰も思ってないよ!
暁胡さんか!?暁胡さんならふわふわになる?もっと可愛いの読みたいよお!
鶴来先輩のあやちは無口でよしよししたいけど、僕をよしよししてくれる○○も好き!
どっちも好きなの!選ぶとかじゃないの!どっちもがいいの!みんな仲良しなの!
っていうお花しか飛ばないハッピーな世界線がいいの!!
それなのに、なんであんなに殺伐としてるの!?
西部劇じゃないんだからさ!!
タンブルウィード転がさないでよ!!
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