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第239話
夏休みだと言うのに部屋のベルが鳴った。もしかすると午後から来ると言っていたあいつがもう来たのかと、ハイハイちょっくら待っとけー。玄関に向かって叫び軽く雑誌と食器を片付ける。
だが予想は外れ、ドアの先にはアムがいた。
スマホとイヤホンを握り、小さく漏れ出す音を聞きながら来たのだろう。
あいつはどうしたのかとアヤのことを問えば、一緒ではないと言う。
途中で別れ、一番近いここに来たのだとか。いきなりだがまぁいいかと、取り敢えず部屋に入れる。
「ここに来たこと知ってんのか?」
「あやちには言ってない」
「いやいや、言ってから来いよ」
「直ぐ出ていくから大丈夫!だって、誰か来るんでしょ?」
「あぁ、まぁ」
勘の良さは変わらない。
しかし今はそれが悪い方向に働いているのだろう。
夏休みが始まってまだ数日しか経っていなかったあくる日の夕方、俺の部屋に月極が来たんだ。
アムの様子がどうもおかしい。去年はどうだったのかと。
もともと生徒会の顧問だった俺にその時の様子を聞きに来たのだと言う。
どうおかしいのかと聞けば、月極自身もなんとなく。としか言わなかった。勘はいいから何かに気付いて考えあぐねているのだろう。
その時はそう返したが、まぁ今見た感じだと俺も同じことを言うだろうな。
なんとなく違う。
アヤがいないのも原因の一つなのだろうが、核が掴めない。
それともう一つ気になることが。
「なぁ、アム」
「なぁに?竹ちゃん先生」
「ワイシャツ脱いでみろ」
「えー!竹ちゃん先生えっちぃ!」
「良いから、捲れ」
服に手を掛けようとしたがスルッと逃げられた。
そして竹ちゃん先生えっちだから僕帰るねぇ!と走り、玄関まで追いかけたのだが外に出るのも早く、そのまま逃げられてしまった。
「はぁ。あれ、やべぇんじゃねえの」
頭を抱えアムの逃げた方向を見ながら月極に電話をかける。
アムを取り逃がした。そう伝える為に。
「何がやべぇんですか?」
「ん?あぁ、お前がもう少し早かったら……」
とある人物の声と丁度繋がった電話越しに、何が早かったらなんだ?と言う月極の声が被った。
ホント、今日はタイミングが悪いな。
気付いたら溜め息が出ていた彼だった。
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