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第242話
ベッドに下ろすと案外簡単に手は離れた。どこを見ているか分からない亜睦をそのままにして後ろを向く。
いつもの箱をクローゼットから持ち出しサイドテーブルに中身をゆっくり出していく。
これの他に――考えていると案外しっかりした声が行動を制御した。
「じゅん、今日はしないでいい」
「あ?なんだ、珍しいな」
顔を見ると目は未だぼんやりと斜め下を向いて動かない。
幻聴だったんだろうか。待っているとまた、声を発した。本当に珍しい。
何かいつもと違うことがあっただろうか……
「今日はしない。僕、脱がない」
「竹ノ原のこと気にしてんのか?」
あんなの放っておけ。
言いながら亜睦の前に片膝付いて手を伸ばす。3、4とボタンを外している途中、ガッと音がしそうな勢いで手を掴まれ痛みに顔が歪む。
「いってえだろうが!爪立ててんじゃねえよ!!」
「今日脱がないって!!でもじゅんがっ!」
「つべこべ言ってんじゃねえ!どうせまたしてんだろ!?」
「わっ!じゅんじゅ、やっ!ヤダってば!ねえっ」
肩から無理やり脱がせようとするも今日は暴れまくってらちが明かない。
今日は何があるってんだ。いつもは大人しくしているが、嫌がり声を出し暴れる。
違う所はなんだ。何が亜睦をこうさせているんだ。体を押さえながら考えているとふと玲音の顔が浮かんだ。
玲音が、いる……からか?
確信はない。本当にそうだとも思わない。しかし違うのはこれくらいだ。
「やぁっ!やだって!!」
「うお!いい加減、ぬげっ!」
「だから、してない!んっ、ほんとに今日はしてないの!」
「今日はってことは、別の日はにしたんだろっ!痛がってんのが証拠だっ」
叫んで叫び返して。
俺も仕舞に意地になり、絶対脱がすと意気込んで更に力が入る。
言っていることを信じていない訳ではない。
しかし、二度の前科がある。化膿して酷くなったあれを思い出したくない。
だから容易に受け取ることが出来ない。
月極の言っていた、やべえやつだからな。
「れおちんだってしてるもん!!」
「は?――あ、おいっ!!」
その名前に一瞬の隙を作ってしまった。その隙にするりと逃げ出し走っていく。
気付いた時には叫びながら扉を押し開け、次にはゴツと言う鈍い音と小さな悲鳴が聞こえた。
なんの音だと気になるものの、思考の大半をさっきの言葉が占めていてそれどころではない。
あいつもしてるって、どういうことだ……?
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