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第243話

「いてて……」 突進してきた鶴来先輩を受け止めると言うかクッションになったと言うか。 扉がもの凄い勢いで開きぶつかり、鶴来先輩にもぶつかった。 勢いよく頭を打ち付け、何がどうして……と額と後頭部を押さえ床で悶えていると心配そうな声が降って来た。 「れおちん大丈夫!?こんなに近いと思ってなくてっ」 「う……大丈夫で、す?」 「おいっ!って亜睦、こいつがいるの分かってたのか?だから――」 「れおちん助けて!じゅんじゅんがね、僕をいじめるの!!」 「「は?(え?)」」 そう言って抱き着いてきた。 訳わかんなくて固まっていると追いかけて来た潤冬さんも部屋から出てきて、首根っこを引っ掴んだ。 うわっ!やだっ!鶴来先輩は叫んで外そうとするけど力で勝てる筈もなく、どんどん部屋に引きずり込まれて行く。 どうすればいいんだろう。助ける?助けない?どっちが正解なんだ? 「そんなの!迷わず助ける!!」 「っ!おいっ、引っ張んな!やめろっ!」 「いくら仲がいいからって、やり過ぎですっ!」 「んっ!れおちっ、苦しっ」 「鶴来先輩、もうちょっと我慢して下さい!」 潤冬さんに渡すわけにはいかない。 上半身は持ち上がり過ぎてもう駄目だ。必死に足にしがみ付き引っ張り返す。 夢中で力任せに掴み、目的を見失いつつあった。そんな時、俺の粘り勝ちの声がした。 「うおっ!?」 「わっ!!」 慌てる潤冬さんの声がして、見上げた瞬間ドシーン!と音がした。 漫画みたいに服が綺麗にすっぽ抜けバランスを崩し後ろに転んだらしかった。 らしかった、と言うのは上半身裸の鶴来先輩に気が向いていて彼の状況把握を直ぐに出来なかったからだ。 「いってえなあ!ふざけんじゃねえ!!こっちは真面め――」 「鶴来先輩、その胸の傷は、なんですか」 「亜睦っ!」 思わず口にしてしまえば、放心している鶴来先輩に手を伸ばし隠すように体を抱いた。 しかしすぐに離れた。気が付いた鶴来先輩が体を押し返したのだ。 「れおちんなら、いい」 「だが……」 「もう見られちゃったし、隠しておけない、でしょ?」 「………」 2人の言動をただ見ていることしか出来ず、逃げる選択肢は浮かんでこなかった。 「れおちん、ごめんね!びっくりしたでしょ?」 「え、あ……」 「らしくないもんね!こんなことするの」 いたいくらい明るい声でらしくないと言う。その言葉が胸に刺さりズキズキと音を立てた。 こんな時に持ち出すのはどうかと思ったけどきっと、潤冬さんや鶴来先輩、他の生徒会のメンバーには王道BLにありがちな強いイメージが付いていて、自覚もしている。 そして、優しい彼らはそれを、壊さないよう大切にしている。 結果が胸の引っ搔き傷。赤いミミズ腫れに取れかけたかさぶた。さっき動いたからだろう、小さい血の粒が浮かんでいた。 知っていた潤冬さんは、それの手当てをしようとしていたのか? でも、鶴来先輩いじめると言っていたし、何が正解なんだろう……… 「れおちんっ」 名前を呼ばれてもなんと言えばいいのだろうか。頭が真っ白で思いつかないし、たぶん俺には返せる言葉がまだ何もない。 何もなくて、どうしようもなくて、でもどうにかしたくて、ただただ目を彷徨わせるしかなく、ふと目に入った鶴来先輩の手をやっと握るしか出来なかった。

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