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第250話
仕方なくおやつの準備に立ったかと思えば、スッと冷めた表情で正面を向きスマホを取り出した。相手は2コールで必ず出て指示に従うお抱えの執事。いや、情報屋である。
画面を軽く操作し、扉を抜けキッチンに足を踏み入れた所ではいはーい。気の抜けた返事でやはり2コール。相手の声はいつものようにボイスチェンジャーを使った胡散臭いそれ。だがしかしもう慣れてしまった。
「羽葉玲音を調べろ」
『またー?』
「お前、前回俺のことを騙しただろう。次はねぇから」
『おーこわー。でも一つ良い?……誰が、騙したって?貴方に言われた通り調べた』
書面上の彼を。
スピーカーから聞こえる声は己の声よりも冷静で、冷たい怒りすら感じ取れるようだと嵩音は思った。
これ以上怒りを買っては自分に都合が悪い。情報はいつだって必要になる。少しの失態で未来を悪化させることは今はしたくない。
他の者ならこちらも苛ついていただろうが今回は折れるしか選択肢はない。
「そうだな。俺の言い方が良くなかった」
『めーずらしー。貴方が非を認めるなんて。ま、それはもうどうでも良いよ。で、今回は彼の何を?』
「ん?」
『なに?』
いや、なんでもない。返した嵩音は続けて言う。
羽葉玲音の過去、ここに来ることになった経緯。それから――
本当に聞きたいのは最後の一文。
『ふーん。人の過去なんか知って、変態じゃん』
「チッ マジで殴る」
『あー、殴られるのは痛いからイヤだ。でも、痛そうな顔してる貴方は、ゾクゾクするなー』
「………オネエが出てんぞ、変態」
『やーん、ひどーい。けどいじめられるより、痛めつけたい派だから。悪者を』
なんか凄い決まった。これ次から常套句にしようか。月の代わりに痛めつけるぞ。みたいな。
どう?いいよな。なー?変声音でキャッキャッと騒ぐ相手。気持ち悪さしかなく今すぐに切ってしまおう。スマホの画面を数秒見つめ正に切ろうとした瞬間、思い出したように嵩音は耳にスマホを当て直した。
「お前が聞いてきたの、初めてだったな」
『なに?』
今までのマシンガンをピタっと止めた。話は耳に入っているようだ。
「だから、お前が俺に何を?とか聞いてきたの初めてだったなと思って」
『まー、二回目だから』
「でも、今までは興味なさそうにふーん。だけで……そう言えばこうも言ったよな。」
人の過去なんか知って、変態じゃんと。
まるで俺を牽制、もしくは警戒しているかのような言い方ではないだろうか。
一度気になってしまうと疑問は増える一方だ。
「前回なにかあったか?」
『なーにも。ただ、貴方も変だ。ここまで他人を知りたいなんて。それになにかあったか聞くのも、初。ま、自分にはもうどーでもいいけど。ばいばーい』
「なっ!おい!!」
逃げるように通話は切られ、今知りたかったことはなに一つ聞けないままプー、プー、と無機質な答えだけが取り残されていた。
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