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第251話

他人を知りたい?そんなの今まで何回もあっただろう? その度にお前に電話をして、情報を……… ドリップコーヒーにお湯がしみ込むジュワジュワと言う音がヤケに大きく聞こえ、独特の香りと湯気に視界がブレた。 あいつがあんなことを言うから気付かなくてもいいことに気付いてしまったではないか。 ふぅ。息を吐いて冷静に冷蔵庫を開ける。すると今まで気にしたことがなかったドレッシングの瓶がぶつかるガチャンと言う音まで耳に残り、使っていなかった冷蔵庫内にこの数日で物が増えたことも知る。 「ふっ、ハハ」 考えるのを止めようとしても他のことも勝手にどんどんと気付いてしまってどうしようもない。自分で自分のことが分からない。 だが一つ分かるのは、今の環境がどうしてか、どうしようもなく楽しくて仕方がない。 「なんなんだか……」 「なにが、なんなんです?」 「うおっ!急に出てくんなよ!びっくりしてケーキ落としてたらお前のせいだぞ!」 丁度持とうとしたケーキの箱から手を離し、冷蔵庫を閉める。 声の方を見ると、出入り口から申し訳なさそうに顔を出している玲音がいた。 遅い俺の様子を見に来たのだろう。 「俺の所為ですか!?それは潤冬さんの不注意ですよ!!」 「あ?この場合は俺の所為じゃねえ!脅かした奴がわりぃんだよっ」 「でも脅かす気がなかったならそれは―――」 言い切る前にぐぅぅぅ……お腹が鳴った。 そう言えばここに来たのもこいつの腹が鳴ったからだったな。 「ククッ……その腹の虫は、ケーキで治まるか?」 「なっ!なにをっ!!………カツサンドとかカレーとか、食べたい、す……」 「ブハッ!軽食でもねえっ!!そんなに食って、豚になりてぇのか!?」 「なっ!なっ!!成長期!!身長が伸びる為のエネルギー!!!」 必死に叫ぶ玲音が面白くてヒーヒーお腹抱えて笑った。その所為で俺もケーキじゃ足りないし、もう一つの欲も満たしたくなった。 「分かったわかった。悪かったよ。俺も腹減ったから、カツサンド頼むわ」 「なっ!潤冬さんはもう成長しないでいいのでは!?でもってカレーは!?」 「あ?俺は筋肉になんだよ。あと、カレーは却下」 「どうして!理不尽だ!!俺はカツサンドも食べたいけど今の本命はカレーであってカツサンドは謂わばぜんさっムグゥ!?」 ギャーギャー騒ぐから口、と言うか顔を手で押さえ物理で静かにさせる。 そして、耳元で言ってやる。 「カレー食ってセックスなんて、盛り上がんねえだろ?」 言い終える前にビクついて、アッと言う間に大人しくなった。 手を離し顔を見ると見たことない程、赤くなっていた。 ハハ、やっぱり楽しい奴だな。 「カツサンド来るまでコーヒー飲んで待ってようぜ?俺の上で準備体操でもしながら」 「っ、っ!し、しませんっ!!」 「ハハハッ!!」 玲音の手を引いて来た道を戻る中、気付いてしまったあのことをまた、思い出していた。 ハル以外の情報を、俺は聞いた記憶がない……

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