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第255話

「…………」 タン、タン、タン、タン、タン、タン…… リズム良く俺の人差し指はテーブルを叩く。 クソ音楽家でねえ、気長でもねえ俺がこうする理由など、一つしかない。 イライラし始めている嵩音のことなどつゆ知れず。 「ん、むぐ……」 玲音は一生懸命、目の前にあるカレーを食べていた。中途半端に体に熱を与えられ、しかし相手は自分など当に眼中にない。泣き寝入りしようかと思った矢先、ふわふわ立ち上る美味しい匂いに食欲の方が少し勝ってしまった。 快楽なのか、武者震いなのか。小刻みに震える指でスプーンを持ち、カチャ…漸くカレーを口に運ぶ。 入れら瞬間にぶわっと鳥肌が立った。 脳はもう、覚えているのだ。スパイスの利いた、学食の辛すぎない美味さを。 けれども体は言うことを聞いてくれない。力の入れ方は未だに思い出せないと、スプーンを握る指は辛そうに何度もテーブルで休んだ。 「はぁ…」 一口ごとに休み、怠い顎を動かし、もっとガブガブ食べたいのに食べられないもどかしさに玲音は苦しんでいた。 始めはそれをじっと見つめるだけだった潤冬。しかし、減りの遅いカレーや、未だに手を付けていないカツサンドを眺めているうちにだんだんと増えてしまったのだ。 彼の怒りは。 自分から言い出したことだが、大穴の4番があるなど誰が分かっただろうか。 ちまっちまノロッノロ食いやがって。 そう思いながらタンタンタンタンとテーブルを叩いた。 「カタツムリじゃねえんだからさっさと食え!」 「えっ……」 「………あっ」 驚き嵩音の方を向いた羽葉に、思っていたら口から出てしまった。とでも言いそうな珍しい表情を彼は返した。

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