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第256話
「……の、ノロッノロ食ってんじゃねえ!」
言いながら「スプーン貸してみろ!」と半ば強引に羽葉から奪い取る。
あ。俺のカレー……
目の前のお皿まで取り上げられ、シューンと頭と肩を落とした。
お腹は多少満たされたけど、まだ半分以上は残っているし、メインにはまだ一度も手を付けていない。
こうなるなら、あのゴロゴロした大きいお肉は先に食べるべきだった。
学食のカレーは、生徒に人気だ。
特に肉の大きさに定評があり、時には完売するほどである。
だから尚更、取り上げられた悲しみは大きく、直ぐには立ち直れそうにな……
「おらっ!」
「……ぇ」
威圧的な声と共に、悲しみに暮れていた彼にスプーンが向けられた。
正確に言うと、カレーとご飯を乗せた、スプーンだ。
ちょっと意味が分からない。
食べ物を取り上げられた悲しみから抜け出せていない羽葉は、困惑した。
だって、そうする理由が分からないのだ。
食べたかったんじゃないの?
自分のを食べ終えて、まだ足りないから俺のを奪い取ったんでしょ?
そう考えていた。それ以外にないと思っていた。
人気のカレーだからなおのこと。
「早く食えよ」
「………いいの?」
もしかして、くれるの?
でもまだ半信半疑で、小さな声で尋ねてみる。
何故なら、からかわれているだけの可能性もあるから。
食べ物はそれほど人を惑わせた。
「いいから、食え!」
「むぐっ」
口に突っ込まれ、ゴロッとジャガイモが歯に当たる。
うまいぃ……
鼻に抜けるスパイスとどんどん崩れるジャガイモの美味さにハの字に眉は下がり、夢中でもぐもぐ口を動かす。そのうちにカレースプーン第2段がやって来て、今度は自ら口を開ける。
「おにふ……」
「あ?なんだ?」
第2段には念願のゴロゴロお肉が乗っていて、気づかぬうちに声が出ていた。
どうしてこうなったのかは分からないけど、だるい思いをせずカレーを食べられるので、これ幸いと考えることを止めた。
「なんでも、美味そうに食うな。あと、すげぇ顔してんの知ってるか?」
「んむぅ……?」
「まあ、自分じゃ見えねぇし、わかんねぇよな」
俺は肉を味わっているのに、ボソボソ呟いてて気が散る。
と言うか、すげぇ顔ってなに?
ほんの数分前まで何をされていたかもう頭から抜けているのか、肉に必死で考えが及ばないのか。
もぐつき見上げる羽葉の足に、嵩音はするると手を伸ばし、付け根にはすぐ到達した。
「っ!?」
いつの間にカレー皿を置いたのか。
どうして手を伸ばしてきたのか。
普段なら即行で聞いているそれら。しかし今は、そんな暇も余裕もない。
「お前今、何度もイッたあとみてぇなトロ顔してんだぜ」
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とろけるのは、肉だけして。
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