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第270話

「林の中を颯爽と駆け抜けたかと思われたがその実!彼は華麗に数メートルで足を縺れさせ、地面とこんにちわをしていたのであった!!!」 ひんやり冷たい草むらから顔を上げると、羽葉の鼻は可哀想なほど赤くなっていた。 制服も無事ではあるが、転んだ拍子に中で擦れたらしく膝はジンジン熱を持ち脈を打つ。パンツを捲りたいような、現実逃避をしていたいような。 しかし今はこれよりも和民のことが気になって仕方ない。 「……んんっ……和民君や、そんっなに大声で言わなくても……」 「そう!彼は運動神経があまりよくないのだっ!!その為、僕の速さに着いてこられず、盛大にっ!こけてしまった!!なんといたましやっ……この小さい身体には運動神経すらそなわって――」 「分かったっっ!!もうじゅうぶん分かったから!これ以上俺の心を抉らないでっ!!!でもってそのナレーター口調ももう止めて!!!心が悲しい!俺の!心が!泣いて叫んでいる!!」 「え、あっ、そう?」 「返しが軽いっっ!!本当に泣くぞ!いいのか!!?」 「盛り上がるかなって思ったんだけど」 「なにをどうしてそうしたら自分の短所で盛り上がれると言うんだい!?スッ転んだこと実況されて、足も痛くて、流石に無理!泣きそう!!泣く!3、2、1、ふぇぇ……」 「あああっ!泣かせるのはダメ!お笑い道に反してる。うん。ごめん。泣かせる気はなかった。ちょっとでも痛みから気を反らせたら……なんて考えたんだけど。ごめん。泣かないで!」 案外大きな手で頭を撫でられ、ごめんねを繰り返しながらワシワシ頬っぺたまで撫でられる。そこからいつまでもワシワシしてくるから、もういいよ分かったって。 でもどうしてか今度はワシワシする手が止まらず、ごめんねごめんねを繰り返しながら頭なのか顔なのかもう全てを撫で繰り回して来て、降参こうさん!と告げる。 それでも終わらなくて、そしたらなんでか笑いが込み上げてきて、ギャハハと笑いながらもういい分かった!本当に分かったから!マジでもうっ!叫んでいた。 「そうだねごめんね」 「もっ、ちょっ!わたみくっわかっ、わかっ、うぶっ!ひょっ、わたっ」 「うんうん」 「ね、ちょ、はなふぃきいっ!」 「そうだよね。聞かないのはダメだよね」 「え、なっ、ちょっ!?わたっ、ちょっ、えっ??」 「でも、分かってて言わないのは余計にダメだよね?」 「んえっ、な、えっ……?」 え、なに? 漸くワシワシが終わったかと思えば、和民君に馬乗りされてて、身動き取れない状態だった。

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