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第271話
「そして、2時間後……」
「いや、たったの20秒後だから!」
ワケわかんないナレーションが復活して思わずツッコミいれたけど、何をどうしてこうなった?
ワシワシからのこの状況なに?恐い。
もしかして、私の雪君たぶらかしてこの泥棒ネコ!!!って言われるの?
田んぼと稲の女の人みたいにドロドロ昼ドラ系になるの?
え、恐い。俺、ノミの心臓だぞ!良いのか!?
ノミなんだぞ!!?
「……して」
「ん?」
「……ぉ…し、て……」
真上にいるのに長い前髪のせいで顔はよく見えなくて。でも、泥棒ネコ!って言う感じはなく、だから今度は俺が両手で彼の髪に触れる。
一瞬、相手に止められるかなと思ったけど彼は俺の手を止めることはしなかった。
案外綺麗に手入れされているサラサラの髪を開くとその奥には悔しそうに眉を寄せ悲しそうな表情をする、顔立ちの良い青年がいた。
「………」
「何も言わないんですか?最初から、確信を持っていたくせに」
「………」
「だからあの時も、僕を呼んだ」
ただただ前髪の奥を見つめ、彼の言葉を聞いていた。その表情は一切変わらず、何を考えているのかは分かりそうにない。
「そうでしょう?り」
「貴方が言ったんだよ。声は変わらないって」
「…………」
「正確には、声の特長は変わらない。どれだけ音の質は変わろうが、イントネーションや言葉の癖はそうそう変わらない。いや、つい出てしまう」
あとは、あの時に見えてしまった……というより確認をした。
迎えに来て欲しいと連絡し、抱えられたあの時。
鮮やかな青緑色が特徴で、扇のように大きく飾り羽を広げる鳥――孔雀の一部が項の下から。
「なるほど。僕の言葉からそこまで理解していたんだ。流石と言うか、君も変わらないと言うか」
「………」
「そのせいで色々あったのに、また過ちを犯してしまった」
離れようとする玲音の片方の手に手を重ね、真っ直ぐ目を見る。
2人は何を思うのだろう。
先に口を開いたのは、玲音だった。
「ピーフ……」
「シィー。君が遮ったように、ここではダメです」
「………」
同い年に見えない大人の優雅な言動に流石の彼も口を閉ざすしかないようで。
何より、早く馬乗りされている現状から抜け出たかったのだ。
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