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第285話

枦椋は、やはり今の羽葉の恥ずかしいあれこれを気にした風はなく、ただ眠たそうにくあぁ。大きなあくびを一つしただけだった。 「枦椋先輩、どうしてここに?」 「ん」 頷きとも返事ともとれる一言と、人差し指であっちと左の林を示す。 どうやらそちらに居たらしい。 らしいと言うのは、彼は元々口数が少なく、また木しかないここで詳しい説明はそこまで必要ないからだ。 だからと言って、質問の答えになっているのかと言うとなに一つ返って来ていない。 あらかた予想は付くけど。思うもなにも話さなずいるのは申し訳ない気がしてあのと口を開いた。 けれど珍しく問いかける前に彼から何やら話しを始めた。 「あ、……いて、……れぉ、……め…」 「ああ、なるほど!あっちにいて寝ていたら、俺の声が聞こえて目が覚めたんですね!それでこっちにきたんですね!」 「ん」 って、俺どんだけデカい声で笑ってたんだ!?自分で自分にツッコミを入れていた。 なんとも話とは言えない彼の説明だったのだが、玲音には十分通じたらしい。 枦椋の表情もなんとなく柔らかくなったように感じる。 「枦椋先輩、今日は鶴来先輩と一緒じゃないんですね」 羽葉のそれにピクッと反応した。しかし、返事はない。 そっと見つめ続けたけれど、その後も何か言ってくることはなかった。 けれどどことなくしょんぼりとしていて、まるで耳を垂らして落ち込む犬のように見えた。 だからケンと呼ばれていたのかもしれない。 穴があったら入りたいと思っていた羽葉だったが、意気消沈の相手をおいて逃げるのは可哀想だなとある提案を持ちかけた。 「先輩、俺と少しお昼寝しましょう!」 言うと、ごろんと芝生に寝転んだ。 少しばかり冷たい草が顔に当たりに、チクチク肌を刺激する。だから顔の下に腕を敷き、目を瞑る。 そうすると土の匂いがして、太陽の暖かさがじんわり体に滲みて、そよ……と風が時折髪を撫でるのが分かった。 気持ちいい。 ただ純粋にそう感じる。 深くゆっくり呼吸を続ける。 「れ、ぉ………」 「はーい?」 名前を呼ばれ、ふと、そう言えば自分は彼にフルネームを言っていただろうか?と疑問が湧く。 まあきっと生徒会の中で聞いたのだろう。 鶴来先輩もれおちんと呼んできたし。 今はどうしてか何も考えられそうにない。 目を瞑る羽葉は気づけなかった。 どうして彼が羽葉の名前を呼んだのか、そして、どんな表情をしていたのかということに。

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