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第288話
必死になりすぎて力加減もわからなくなったころ、くっ、とかすかに握り返された。
気がした。
「はし、くら、せんぱ、」
「れ、ぉ………や、……」
羽葉が顔を上げると、唇をゆっくりと動かし吐息をもらすような弱々しい声で問いかけてきた。
れおんは、いやじゃない?と。
一言に全てが詰まっているような気がして、逃さぬよう理解を間違えぬよう考えた。でも考えすぎてしまわない早さで返事をした。
いやじゃないです。もっとあなたと話をしたいです。
真っ直ぐに相手を見て口を動かす。
今まで聞こえていた鳥の鳴き声も風に揺れる葉の音も耳に入ってこなくなって、少しだけ時間が止まったような気がした。
じわ、と手に額に汗が滲んだ。それなのに口のなかはカラカラになっていく。
「………ぁ…」
言葉を待っていると、何かに気づいた枦椋の目線は上を向いた。え、なに?後ろを向いて見る前にズシッと頭にかかる重み。
予想外のことにぐぇとカエルにも似た声をもらした。
「ばーか。なに2人して泣きそうになってんだ?」
「う……その、こえ、は……じゅんとさ……ぅぅ、おも……」
「あ"?んなこと言ってないで耐えろよ。ひ弱か?」
「うぅ……ひ、さしぶりに、おれ、さま……くっ、ぅぅぅ」
自分でなければすぐにでも妄想の対象にできるのに。悔しさと重さに耐えることしかできない彼の表情は、少し前に流行ったしわくちゃの黄色いあのキャラクターそのものだった。
重力に負けそうになりながらどうしてここに?尋ねるとお前を探してたんだよばーか。と2度めのそれ。
「……あ。枦椋せんぱ、い、を……?」
「違う。お前だよ、玲音」
「え」
この一言に一気に重さとか悔しさとか妄想とか重さとかあとは、重さとかぶっ飛んでいった。ぶっ飛んでいったと言うか真っ白になった。
だって、こんな……こんな…………
まじでBのLみたいなことある?
お前のこと探してたんだよばーか。なんて、恋愛ドラマでもなかなかに見かけないそれが本当にある?夢?まだ寝てたとか?それともドッキリ?意味わからん。でもってまじで意味わからんのは、この言葉の対象が俺ってこと。
俺ってことだ。まじ意味わからん。
探してる理由もわからん。
…………………………。
「え、潤冬さん暇なんですか?」
「あ"あ"??」
「いえ、なんでもないでございまする!」
「はぁ……こんなやつ、探さないでおけば良かった。帰るわ」
「ぅえ!?もう帰っちゃうんですか??この状況を見ても!?」
「いやお前、この状況だからこそ巻き込まれないように帰るんだろうが。アホか」
「ぅぅ…………」
「はぁ。2人とも立て。寮に行くぞ」
「え!はい!!」
「うるっさ」
嵩音の言葉に大声で返事をし、羽葉は枦椋と繋いだままの手を離すことはせず、少し気まずさはあるものの急に訪れた助け船に乗りこみ寮に向かった。
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