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第289話

「で、なんでお前まで抱っこマンになってるんだ?」 そう。寮に戻った俺たちは、というか俺は、手を繋いだままソファに座り枦椋先輩を正面から抱き締めてます。体格差で抱きついてるみたいになってるけど!!俺が!!抱き締めています!!!重要です。テストに出します。 こうしていないとまだ不安なんだ。枦椋先輩がどこかに言ってしまいそうだから。体格よすぎて背中に手がまわらないとか、そんなの関係ない。決して自分の手がちょっとみじか……ん゛ん゛っ!厚みがあるからしがみついてるのも仕方ない。制服にシワがついても仕方ない。 そのままに見上げる。 「俺、先輩ともっと喋りたいです。あんな酷いこと言って、ごめんなさい。一緒に寝てたとき、温かくて居心地が良くて、ずっとこのままでいたいなって本当に思ったんです。だからーーわっ」 不意に顔に影が落ちてなに!?と思って首をすくめて目をギュッと閉じたら、可愛い音が額からした。 ちゅっ、て。 柔らかい感触もして、のみの心臓がバクバク音を立てるけどゆっくり目を開けてみた。すると、心なしかいつもの眠たそうな無表情から笑っているような顔でこっちをみていた。 「れ、ぉ……」 俺の名前を呼んで、また、顔に影が落ちてきた。 今度は直前まで目を開けていられた。額にちゅっとキスをされる。 柔らかくて、温かくて優しい触れ方だ。嬉しくなってまわしていた腕にギュッと力を込めると今度は額からこめかみ、頬、鼻先と範囲を広めていく。 「ははっ、くすぐったいですって」 「れ、ぉ、いっぱ、ぃ、する……」 「はしくらせんぱっ」 キャーキャー言っていると口の端に触れた。 あ、これ不味いかも。 楽しくなって場所も考えずにキスされ始めてて俺も止めることなくされるがままで。 でも先輩には鶴来先輩がいるし、このあとにもし口に触れてしまったらーーそうよぎった瞬間、口を手で塞がれグッと後ろに引っ張られた。 それはもう勢いよく。 ベリッと音がしそうなほどのあっという間で気づいたら抱きついてた格好のままころんと後ろに倒れていたし、見えたのは天井と不機嫌な潤冬さんだった。 「これ以上は、お前でもだめだ」 なんで不機嫌なのかはわからないけど、危ないところを助けてもらったことに変わりはない。口に手を当てられたままだから心の中でお礼を言う。助かりました。俺も口にキスはだめだと思ってました。 「……っいっっだ!!」 何事もなく起き上がろうとした。そこで膝に激痛が走って、膝の付近に手を伸ばした。そういえばあの時、盛大にスッ転んだんだと嫌でも思い出してしまう。 触るのは怖いから膝にこれ以上外からの刺激が来ないように空中で守りながら痛みが治まるのを待つ。 そっと、動かないで。 「れお、」 「いや!!ぃっ、なんでもないので!!!」 「まだなにも言っていないが?」 「……」 「膝に怪我、してるのか?」 「…………」 長い沈黙の末、してません。消えそうな声で言った。 大きい声も膝に響いたからだ。 「声ちっさ。おい、怪我の手当てするから、逃げないよう玲音のこと押さえておけ」 「ん」 なんの会話をしているかと思ったら、急に枦椋先輩が俺を後ろから羽交い締めからのお腹から胸の辺りまでしっかり腕をまわされて抱き締められるというよりは、動かないよう固定された感じだ。 「うぅ……出来れば見たくないよぉ……」 「あ゛?なら、横向いてろ」 「ひぇっ、そうします……」 いつの間にか薬箱を持って来ていた潤冬さんは足元にいて、スラックスを捲ろうと手をのばしていた。矢先のそれにギュッと目をつむり横を向く。 「あんまり、痛くしないで下さいね……」 「知るか」 「ひぇぇ……」 声が震えていたのはもう、しょうがない。

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