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第34話
後退りに失敗して倒れる寸前、グッと体が引かれ甘い匂いが近づき、衝撃も痛みも受けることはなかった。
「っぶねえだろ!」
「……え、俺の所為?」
「はぁ、まじ編入早々ケガとか、止めてくれよ」
「あ、優しい」
こういう優しい所もホスト時代に培ったノウハウだろうか。細く見えて引く力は強くて、でも痛くはなくて、触れる糊の利いたスーツと香水と体温も、なんか心地よい。
それに、美形ホストの顔が近くて、さっきからドキドキが止まらないんだけど…
「んだよ。マジで俺に惚れたとか?」
「え、なんで」
「もの欲しそうな顔して優しいって言われたら、仕方なくね?」
あれ?そんなこと、言った覚えない。ちょっとは思ったけど。
と言うか、いつまでこうしてるんだろう。もう何にドキドキしてるか分かんないし、俺もイヤじゃないとか。ただの腐男子なのに何思ってんだろ。
「あっ、なに」
「なにじゃねえよ」
眼鏡のブリッジに指を引っ掛けて上にずらす美形ホスト。
わっ、待って、まってって、それはダメ―――
「んぅっ」
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