35 / 291

第34話

後退りに失敗して倒れる寸前、グッと体が引かれ甘い匂いが近づき、衝撃も痛みも受けることはなかった。 「っぶねえだろ!」 「……え、俺の所為?」 「はぁ、まじ編入早々ケガとか、止めてくれよ」 「あ、優しい」 こういう優しい所もホスト時代に培ったノウハウだろうか。細く見えて引く力は強くて、でも痛くはなくて、触れる糊の利いたスーツと香水と体温も、なんか心地よい。 それに、美形ホストの顔が近くて、さっきからドキドキが止まらないんだけど… 「んだよ。マジで俺に惚れたとか?」 「え、なんで」 「もの欲しそうな顔して優しいって言われたら、仕方なくね?」 あれ?そんなこと、言った覚えない。ちょっとは思ったけど。 と言うか、いつまでこうしてるんだろう。もう何にドキドキしてるか分かんないし、俺もイヤじゃないとか。ただの腐男子なのに何思ってんだろ。 「あっ、なに」 「なにじゃねえよ」 眼鏡のブリッジに指を引っ掛けて上にずらす美形ホスト。 わっ、待って、まってって、それはダメ――― 「んぅっ」

ともだちにシェアしよう!