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第56話
いやいや、さっきはすまなかったね。
コーヒーをテーブルに置きながらその人は俺に話しかけて来る。
扉の前で座る俺に、ここじゃあ話は出来ないからと小さい部屋に案内された。
休憩室と書かれた室名札が付いていた。
「砂糖とミルクはお好みで足してくれ」
「あ、はぁ」
「えっと、それで?なんの話だったっけ?」
「俺がここに早く現れて…誰かとは対照的で…俺、何か不味いことしました?」
ああ!そうそう。頷き思い出したのかまたテンションを上げていた。見た目ピシッとしてるからもっと厳しい感じの人かと思ったけど、あの優しい笑顔は本物だと分かって一安心した。
「不味いことはない。寧ろその逆だ。嬉しいことこの上ない」
「どういう意味…」
「君が居たであろう部屋は、生徒会長が代々受け継いでいるもので、一般生徒はおろか生徒会の子も知らないんだよ」
「!」
待って!なにその話!!誰も知らない入ったこともないって非王道の王道にありがちな会長よりも権力持ってる帝王と呼ばれる人の秘密の庭園みたいな「ここに来れば安全だから」って傷ついた主人公を癒し慰めそのまま結ばれる感動のBLみたいな!
そんな話ある!?目の前にあった!
帝王じゃないけど…庭園でもないけど…
逆に色々されましたけど!?
「どうしてそんな部屋がっ」
「どうして…君は、一年生かい?」
「あ、はい。それに、一昨日編入したばかりです」
「外部生なのか。ならばこれから嫌と言う程に身に染みると思うが、ここの生徒は、力にモノを言わせるかそれに媚びるか。この二つに分かれる」
俺、それ知ってます。小説で何回も読みました。
でも、今は言う時でないと口を閉ざす。
「その生徒たちの上に立つという事は、何もかも秀でていなければならない」
「は、い」
「だとすれば、休まる時がないだろう?だから作られたんだよ。生徒会長のみが使える安息の地」
「あ…」
帝王が使う「安全だから」の言葉は、ここでは会長さんに向く言葉なのか。どこに行っても注目の的になる彼らの心休まる場所。
「ん?待ってください!安息の地なのにどうして嬉しいんですかっ!?」
「ははっ、君は楽しいねぇ。後任は本当にいい子を見つけたなぁ」
「だからあのっ!」
「彼も君も、まだ子供だ。安息とは言え、それを癒してくれる相手が、必要だと思わないか?」
「え」
「媚びも売らず、ただ癒してくれる。歴代の生徒会長は皆、自分の許した一人だけをあの部屋に招いた。現生徒会長は、もうそれを見つけた。ここまで言えば、分かるかい?」
とん、とん、と落とされる言葉に相手を見ることしかできなくなった。
だって、俺はまだ会長さんと出会って一日しか経ってないし、昨日は初対面だし。
あ。そう言えばあの部屋のことも仮眠室って言ってた。
最後はまた来たいとかアホなこと抜かすなとも。
なんだ良かった。俺はただの気まぐれだ!
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