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第74話
「おい、こんなところに寝てんな」
体が勝手に揺れる…なんか、前にもこんな感じ…でも激しい揺れはなく、ゆっくり意識が浮上する。ぼんやり歪み、眩しい視界の中に人影があり、当てずっぽうで名前を呼んでみる。
「かいちょ、さ…?」
「ああ俺だ。遅くなった」
「ぅん…なん、じ…?」
「夜の8時」
あー、もうそんなに経ったのか。
どっちが先でしょうのクイズはご飯だった。冷めないうちにと食べながら待ってたけど全然来る気配なくて、そのうちに眠くなって…覚えてるのはそこまで。
「ふぁぁ、く…仕事は、落ち着きました?」
「今日の分はなんとかな」
「そうですか。会長さん、何食べます?温めますよ」
眠気と闘いながらラップのかかる皿を何枚か持つ。まぁ何かしら温めれば食べるでしょうなんて考えていれば「いや、今はいい」と。
「えっと?俺の話し聞いてました?ちゃんと寝て、食べてって」
「聞いていたし、だからお前はいるんだろう?だが今はそういう気分じゃない」
「んー、仕事が終わったばかりで脳がまだ興奮しているんですかね?お茶入れるので座っていて下さい」
ご飯の温かい匂いでお腹も空くでしょ。手の皿はそのままに、パフェでも頼んで食べていようか。なんて考えていて、この頃には眠気はもうどこかに行っていた。
「お前は、また食うのか」
「寝たら小腹が空いちゃって…食べます?」
ハンバーグをつまんで、会長さんに向けてみる。パフェが届くのはもう少しあとで、目の前で湯気の立つ料理に我慢出来なかった。
会長さんに向かってなにしてんだ?まあ、無視で終わるか。
「すみませ」
「いや、もらう」
あ。食べようとしたら俺のじゃない口の中に消えていった。
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