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第88話(side:???)
「――も仰っていましたよね?」
カップを目の前に置きながら話しかけた彼は困ったように眉尻を下げていた。こういった会話はもう何度になるだろうか。尽きることない嘆きに出そうになるため息をなんとか堪えるのも何回目になるだろうか。そう思うが口にしないのは優しさからではない。
差し出されたカップを静かに持ち上げた相手は、次にはだとしてもと返した。そうですね。頷く彼らの間には確かな主従関係があり、余ほどの理由がない限り壊れることはない。
春夜に行われる2人だけの会議はまるで終わりを知らないと言うようにいつまでも続く。それこそ誰かが遮らない限りは……
「うん?」
小さな振動音に申し訳ありません。断りを入れ彼はポケットから電話を取り耳に当てる。何度か短い返事をし、最後にはいつも言っていますが直接掛けて頂けませんか?こちらにも困り果てていた。
「どうぞ。貴方にですよ」
「はは、彼だね?……はい。久しぶりだね。みんなとは仲良くなった?」
受話口からの声にあはは、ありがとう。笑い背もたれに体を預け足を組みかえる。それで、どう?なるほど。まるで親しい旧友と話すような、穏やかに交わされる会話にこの人も慣れたものだと関心していた。するとふいに顔を向けられ手が指示を下す。それにもう一杯おかわりを頂戴。まだ中身の残るそれにあぁ、と頷き何も持たずその場から離れたのは話を聞かれたくないのだと理解したからだ。
「気になる?……ああ、彼が気にしてるんだ。はは、面白そうだね」
弾む会話に今夜も長くなりそうだと、はぁ…気付いたらため息を吐いていた。
×××
気になる人物登場って?
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