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第116話
引きちぎって悪かったな。
今まで掴んでいた手を漸く放し、前を隠す。最も、ボタンは飛んでいるからきっちり見えなくなるわけではない。
「誰かに聞いたんですか?」
合うワイシャツ探すから座って待ってろ。なんて言われテーブルもなければ椅子もないのにどこへ?尋ねる前にベッド。ぶっきら棒にしかし指で示しながら。
クローゼットを開けしゃがんで引き出しを見始めた。ただ待っているのも落ち着かずさっきの質問を投げかけたんだ。
「いや、たまたま集団でいるところが見えただけだ」
「そうですか」
でも、助けには行かなかったんですね。この言葉も飲み込んだ。
「違うな。俺は見て見ぬふりをした。生徒がどうなろうがどうでもいいと思い、目を背けた。お前を襲った奴らと同罪だな。生徒のトップなのに、だ」
「そうですか」
「新しいシャツだ。着ていけ」
ノリの利いたシャツを受け取り着替える。無言で見られ、居心地は悪かった。
上までボタンを留めると、ジャケットのボタンを今度は渡され、拾ったのかこれもまたスペアなのか。考えながらそれをポケットに仕舞い込む。
彼は扉から離れていて、だからすんなりと鍵を開けられた。
「玲音!今日の夜、あの部屋に来い」
出る直前に言われたけど、それにも返事はしないで、そのまま出ていく。
初めにいた場所に戻るとどうした何があったと問い詰められた。
「え、何もないよ?ちょっと制服引きちぎられただけ!」
「キャー!!会長さんハレンチ!!て、玲音になにしとんねん!?」
「確かめたいモノがあったんでな。ちゃんと新しいシャツもやった」
どうやら俺以外はみんなサインクダサインを終えていたみたい。やっべえ!と慌ててじゃんけんを回したら神的なまでに初回全員負け!!さっすが俺だぜ!一番勝てなかったのは枦椋先輩で8連敗。
会長の欄は、埋まらなかった。
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