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第117話

チッ 静寂を保つ部屋ではそれは酷く大きく耳に響いた。誰の舌打ちかなんて言わずとも分かる。いつの時代もこの部屋を支配するのは長である生徒会長ただ一人。 クソがっ!拳を握り悪態を吐き乱暴に椅子に座るとそれを耐えるように鈍く鳴った。 「彼、だったんですね?」 「ああ」 「怖くて誰にも言えなかった感じ?」 西埜の言葉にいや、あれはちげぇ。そう返した。不思議に眉を寄せる一同だが仕方ないだろう。あの時彼の表情を直接見れたのは嵩音だけなのだから。 そして嵩音も思う。 怯えやトラウマによる恐怖絶望ではない。バカだ頭が軽いなど初期段階で称していたそれでもない。あの時、彼からはなんの感情も伺えなかった。アレだけ感情豊かに接していたはずなのに、だ。シャツを破り開いた後…違う。もう少し会話をしてから。ある瞬間から一切表情を変えることなく、逆にこちらが冷や汗をかくくらい冷静に、沈着に、いやそれも違う。無情、冷淡。言葉を並べるがあれでもないこれでもないとただ流れていくだけ。 「それは一先ず置いておくとして、これからどうしますか?」 「私も気になってた。誰か突き止めるとして、なんて言うわけ?匿名の電話で生徒が暴力を振るわれたと受け、カメラで確かめると彼だったと正直に言う?彼は理事の親戚で、迎えを出すくらい溺愛しているんだ、監督不行き届きではすまないだろうね」 「責任は俺が負う。不行き届きだったのは確かだ」 嵩音の言葉を最後に部屋には再度静寂が訪れた。空気は重く、ここにいるのはまだ高校生であるのに沈黙は倒産前の会議室並みに堅苦しく暗い。 「んな責任、軽々しく負ってんじゃねえ。ガキのくせして」 いつからいたのか、どこから聞いていたのか。突如現れた声にハッとしてそちらを一斉に見ていた。腕組みし扉を背にかったるそうに、しかし5人の視線を物ともせず受け留める。 「ったく、何が責任は俺が負う、だ。もう一人前になったつもりか?数日前までヒーヒー喚いてたくせに。事実を確かめた。お前らはそれで十分だ。何も負う必要はねえし、今まで通りに自分の仕事を全うしてろ。それ以上は俺が理事に話す」 「……」 「なんだ、嵩音」 「いや、ちゃんと教師だったんだなと思って」 「はあぁ…やっとかよ。これでもお前らより荒波通ってんだよ。これからは敬意を払えってんだ」 「つぐちゃん先生カッコいい!ね、あやちっ!」 鶴来に続き枦椋も同意した。 「で、嵩音。いうことはねえわけ?」 「……チッ」 「礼も言えねえのか?」 「…ありがとうございます、月極先生」 「宜しい。じゃあ、俺戻るから。お前らも、毎日遅くまで残ってねえでたまには社会勉強しろ。ガキは遊ぶもんだ」 そう言うと月極は本当に出て行った。 残された面々も今日は気も漫ろだと部屋を後にしていた。 一人残る嵩音はまた舌打ちを響かせる。 「はぁ…ガキは俺か」

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