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第122話
静かに閉じた扉の中では言わずもがな。今までのキリリとした表情を情けなく崩しソファに逆戻りで泣きべそをかく彼と、それをまたかと呆れ顔で見つめる彼がいるのだった。
「れおおおん…私、嫌われてないかねぇ?あぁぁ…あんな声で冷たいねって…れええおおおん…」
「はぁ…彼がどんな子なのか、貴方が一番知っているでしょう?簡単に人を嫌うような子なんですか?」
「違うよ。違うけど、向こうにいた時はそれで苦労したみたいだから、今はそうじゃないかもなんて」
はぁ…またも深いため息が出てしまう。
彼のことは彰も話でしか聞いたことがない。その時の彼の印象はもう少し…短く考えてから今はそっちではなくこっちか。目の前で情けなく膝を抱える上司を冷ややかに見つめた。
「憶測はいらない、ではなかったんです?」
「彰君…」
「そんな簡単に今までの彼はいなくなるんですか?」
「……」
「違うのなら、情けない格好してないで彼らの処分について真剣に考えて下さい。本当に嫌われない罰し方を」
退学も仕方ない。それは雅が下すのではなく、彼らの両親が自分たちの世間体を考え申請してくるのだ。それだけこの学園に通う生徒の家は大企業ばかりで、子どもとは言え事件を起こせば火の粉は自分達に降りかかると分かっている。今まで積み上げた業績など、些細なことで容易く崩れてしまうことも。
全てを見越しての判断である。
「将来を背負うなんて、本来はまだ先なんだ」
「えぇ、そうですね」
「彼らはまだ子供で、社会経験などないんだよ」
「ですから、我々がきちんと決めないといけない。辛い決断になるとしても、それが先を生きてきた者の役目です。だけど本音を言えば、こういったことを考えないでいい学園にして欲しいですし、貴方にはそれが出来るとも思っています」
恥じることなく言ってのけた。逆に彼の上司が赤面し慌てるのだった。
「彰君がっ、私に、デレたっ」
「デレてません」
「全然恥じてない!でも嬉しい!彰君大好きだよ愛してる!さあ、これから愛を確かめようじゃ」
「そんな暇ありませんから。彼らのこと、真剣に考えるんでしょう?」
「なっ、私を弄んだのかい!?酷いじゃないか!ひどいよ、彰君…」
先ほどから一転しがっくりを肩を落としデスクに戻る様子にはぁ。知らずため息を吐いていた。これでは仕事にならないことも知っている為、仕方なく雅に寄る。そっと手を重ね見上げる相手に目を合わせた。
「確かめるなら、ここではなく貴方の部屋で」
「!」
「貴方の好きなアレ、たくさん使いましょうね」
「彰君!今日は他に何があるんだい!サッサと片付けて今日は早く帰ろう」
「ふふっ、やる気出ました?」
笑いかけた次の瞬間、ではと表情をなくし手帳を開く。そしてあれやこれやと予定を告げる。早く切り上げると意気込んでいるが、この量では帰るのは陽が落ちてからになるのは目に見えていた。
「はぁ……」
「なんです?サッサと片付けるんでしょう?」
「私のことじゃない」
「もしかして、帰り際のあれですか?」
「あぁ。玲音は人付き合いが苦手だから、心配だ」
どこまで過保護なんだか。呆れるも然程心配は要らないだろうと彰は確信していた。
「玲音君なら一緒にいる彼の担任がなんとかしますよ」
「そうかい?ならいいんだが」
面倒くさいことになるからと言いはしなかったものの、彼にはあの人もいるのだから尚のこと大丈夫だろう。頷いていた。そう、3階の彼が。
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