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第123話
理事長室の外はまた違う空気だった。
一呼吸置いてから出て来た彼を待っていた月極は先とは違い、どこか冷ややかに見えてその奥は何かを強く孕み視線を止め見つめる。
「ツッキー?そんなに見られたら照れちゃう」
「なんであんなこと言ったんだよ」
「え?」
「冷たいねってなんだって言ってんだよ」
部屋から出る直前のそれを聞いていたようで、問いただすように言葉と視線はきつくなる。
しかし彼が怯むはずはなく、退学なんて冷たい以外になにがあるのさ。外すことなく見返し告げた。
「大事な生徒を一人守る為なんだから、優しさだろ」
「一人は守られても、彼らは守れてないじゃん」
「加害者は悔い改めるのが筋ってもんだ」
「じゃあ、改めた後は?」
「んなもんは知らねえよ。親なり親戚なりがどうにかすんだろ」
我関せずと言う月極に対してもほら、やっぱり冷たいじゃん。足元に視線を移し言葉も流す。
何を思ったのか静かに靴元から詰め寄り、俯き距離を取る彼が背をつけた次の瞬間、ドンッ!力任せに壁を叩き無理矢理顔を上げさせた。
キャー!ガチ壁ドンフ――!!脳内腐男子が舞うような出来事だが今の彼は何を思うか。ただ何も言わず見つめ返すだけだった。
「恩を仇で返すようなこと言ってんじゃねえよ」
「なら!俺はそんな恩いらない!!何もなかった!ハイお終い!!」
「甘いこと言ってんじゃねえ!あいつらがお前に暴力振るわなけりゃこんなことにならなかったんだ!その責任があるっつってんだよ!」
静かにしずかに燃やしていた怒りの炎は、長いながい廊下の端から端まで響くほど燃え盛った。逆に彼の言葉は朝霜のように冷たくて、少しの陽で消えて無くなりそうだった。
「てことはさ、ツッキー、そもそも俺がいなかったら何も起きなかったってこと…?」
「っ、ちげえよ」
熱の違いに戸惑い怒りを忘れていた。だが、彼の冷たさはまだ溶けそうにない。
「俺が陽向や惺士、大翔と話さなければ、誰も辞めなくてすんだ?」
「だからちげえって」
「違わない!これじゃあ、何も変わんないよ…あの頃と…」
熱を孕んだ唇は震え、言葉は今にも消えてしまいそうだった。
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