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第292話
なあ、お前ならどうする?
そう聞かれて、何がですか?と返すしかなかった俺。きっと枦椋先輩たちのことなんだろうけど、いまいちわかっていないからどうすると聞かれても何も答えられない。
「あいつらのことなんだけどよ」
やっぱりそうだった。まあ今の流れ的にそれ以外ないんだけど、あの2人に何があってどうしてこうなってるのかも一つも知らないからなぁ…
王道的な話だと、2人は幼馴染でいつも一緒にいて見た目通りの甘えん坊な鶴来先輩と彼を護る騎士の枦椋先輩。
それだけでなくお互いに依存している。さらによく読んでいた共依存型の双子会計の要素もある。
共依存な双子。髪型に始まり喋り方も好きな物も同じ。世界には2人だけでいい。誰にも僕らの違いはわからない。分かってほしくない。
それでいて、分かって欲しいと言う。どこか似ているあの2人……
最終的にそんな双子は個を見つけて別の形になってしまう。子離れのようにどちらかが一方的に離れ、片割れの個を作り出そうとする。出来た個性を認めて、周りも祝福する。
良いことだと、俺も思う。
いつかは必ず1人になってしまうから。その練習は必要だ。まだ柔軟な子供のうちに慣らす必要がある。
けれど、一方的に離れられてしまった方は大きな心の傷を追う。ねえ、待って。僕を置いていかないで。なんで違う髪型なの?色も違うの?僕たちは一緒じゃないの?あぁ、なんで?と。
あの時の双子は、どうやって仲直りしたんだっけ……?
カツサンドをはぐっと一口食べながら無言で潤冬さんを見る。
「亜睦のあの傷は、不安になると出るんだ。」
俺の反応を見て何か察してくれたらしい。
「不安?」
「今の不安はきっと、絢がいないことだな。そのせいで眠れていないんだろう。それで傷をつけてしまう。自分を見て……と」
「………。枦椋先輩が鶴来先輩と一緒にいない理由は分かっているんですか?」
「それがわからないから困っているんだ」
どこで何をしているのか。鶴来先輩にもわからないらしい。寮にもあまり帰っていないらしく、それで不安が募ってしまうそうだ。
話だけを聞いても、なんだか良くない方向に進んでいる。枦椋先輩が何を考え今の行動をしているのかわからないと危ない。
王道的な話みたいに助けを出す主人公がいてくれないと……
「鶴来先輩、今、大丈夫ですかね?」
「さっき絢を返したから部屋に戻ったと思うが、何かあるのか?」
「なんか、不安になってきて……枦椋先輩、ちゃんと部屋に帰りましたよね?」
「………」
「俺が安心する返事をください!!!」
なんだか背中がザワつく。
自らの考えで枦椋先輩が行動しているのであれば、真っ直ぐ帰る可能性は低い。そんな嫌な結論を出してしまった。
不安であることがあの傷の要因であるなら、今回の行動も自分たちの想像と違えばまた一つ傷を増やす結果となる。
「こう言う時の嫌な予感て、当たるんですよね…」
「………」
自分で言いながら、当たらなくて良いのに。急に味のしなくなったカレーのスプーンを皿に置いて口を閉じた。
静かに聞いている潤冬さんも同意見なのか視線は感じるが何か言ってくることはない。
こう言う時、どうすれば良いのかわからない。
ちゃんと帰っているかもしれないし、そうなれば自分はただのお節介で迷惑な存在。
あまり干渉しすぎても良くは思われず敬遠されるだけだ。
そうやってグダグダとまとまらないことを考えて、俺は日を過ごすんだ。
「今から亜睦の部屋に行くぞ」
「えっ?」
ぐっと俺の手首を掴んで立ち上がる潤冬さん。
この行動力があるから現生徒会長に選ばれたんだろうなとぼんやり思い、自分にはない光がなんだか眩しく思えた。
×××
腐男子はいつでも壁になりたいだけ。
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