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第293話
ドンドンドンッ
扉を叩く音だけが廊下に響いた。
鶴来先輩の部屋に向かう途中で潤冬さんは電話をかけたけど出てくれることはなくて、そのうちに部屋についた。
「亜睦!いるか!?おい!!出てこい!!」
なんだか少し焦っているように見える潤冬さん。
俺がさっき言ったことが関係しているのだろう。
ドンドンドンと叩き続けていると、ガチャと音がして扉が開いた。
「もぅ、なんなのーー。僕もう寝る時間なんだけどぉ……わわっ!」
寝る直前だったのか、いつもの元気さは減りゆっくりと間延びした声の鶴来先輩が出てきた。
扉が開ききる前に端を掴んでガッと勢いよくあけたから鶴来先輩も慌てていた。
「ちょっ!潤冬さんいきなりすぎまーー」
「お前、大丈夫か!?絢は帰ってきたか?」
矢継ぎ早に言うと更に、どうなんだ?と追い討ちをかけるように尋ねる。
「大丈夫だよ?あやちもちょっと前に来たよ」
その言葉を聞いてホッとしたように扉から手を外し、夜分に押しかけて悪かったな。と潤冬さんはすぐに帰ろうとした。
まあ、急に押しかけたんだから今日は帰るのが得策かなーー?なんてぼんやり思いながら鶴来先輩を見ていると、彼もなんだかホッとしていた。
「?」
「じゃあ僕も眠いからもう寝るねーー」
「あぁ、ゆっくり休んでくれ」
そう言って解散しそうになる2人。
一瞬の違和感が、前かがみになった時に見えた気がした赤色が、ここで離れてはダメだという衝動にさせた。
今度は俺が扉を掴んで閉めさせないようにする。
「れおちん?」
「玲音?」
不思議がる2人の声が聞こえた。
そんなのお構いなしに俺は聞きたいことを言う。
「鶴来先輩!本当に枦椋先輩は帰ってきましたか?玄関に靴がないのは、どうしてですか?今日はもう帰った、なんてことないですよね?本当はまだ来ていないんじゃないですか!!?」
そうだ。こうやって詳しく聞かないといけなかったんだ。大丈夫か?なんて聞いたって返事は大丈夫としか返ってこない。
潤冬さんをディスるわけではない。彼だって何をどう聞けばいいかわからず、ただそう聞いただけ。俺だってたぶん同じように言ったはずだ。
だからこそ、傍観していたことで気づけた今、Yes Noだけではない問いかけが出来た。
「あやちは来たよ!靴だって、靴箱にしまっただけで」
「それなら!!それなら、鶴来先輩の靴が出ているのはなんでですか!?」
「………」
はぁ、はぁっ
一気に問いかけたせいで息が上がってしまう。
最後の問いかけに返事はなくて、やっぱり来ていなかったのかと違和感は間違っていなかったことを確信する。
「玲音?亜睦……?」
状況について来れなかった潤冬さんの困惑する声を後ろでに、部屋に入ろうと体を隙間に押し込める。
「ちょっ、れおちんっ!な、なにしてるの!」
「おいっ!何やってるんだ!?」
このまま帰ってはダメだ。1人にしてはいけない。無理矢理にでも中に入ろうとする俺を鶴来先輩は中から押してくる。
潤冬さんも慌てている。
そりゃそうだ。家主がやめてと言っているのを無理やり突破しようとしているのだから。
「つる、ぎっ、せんぱぃ!中に入れてください!」
「やっ!やめてっ!れおちんっ!!」
ぐぎぎと扉を開けながら体を隙間に押し込める。俺も鶴来先輩も互角の力だからなかなか動かない。
「いやです!だって、鶴来先輩嘘ついてるんですもん!!!」
来ていないのに、靴もないのに、無理をしているのに、それを誰にも知られたくない。
でも、気づいてほしい……
1人はやっぱり寂しいから。
「鶴来先輩っ!俺は枦椋先輩じゃないから思いの穴を埋めることはできません!でも、あなたの寂しさの赤い線を!どうにもできない虚しさを!見つけてしまった」
だから、開けてください。
そう言い切る前に、扉が動いた。
中からバランスを崩した鶴来先輩が出てきて受け止めるも、自分も急に動いた扉に驚いてバランスをとれずよろける。
しかし転ぶことはなく、もう1人いた男の体に背を預けられたおかげで「うおっ!」と出したこともない雄々しい声が少し響いただけで終わった。
俺と鶴来先輩を受け止めてもビクともしないなんて……壁か?
俺が1番なりたいものなのに!!
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