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第173話
なんて思っていたらこんにちは、玲音と涼やかな風の声が聞こえてきた。
振り向くとそこには長いまつげで顔に影を作り綺麗な三日月口で笑う王子様がいらした。誰だよお化けなんて真逆のこと言った奴。
超絶目の肥やし、暁胡さんじゃないか。
「あ、お、お久しぶりです!」
「うん。ご飯中にごめんね」
「いえいえ!お気になさらず!です!」
「そう?それなら、ちょっと一緒に来てくれるよね?」
「勿論ですよ!……え?」
少し玲音をお借りしますね。断りを待たず暁胡さんはまさかの俺の腕を力強く掴んで引っ張った。
あ、か弱い王子様かと思いきや意外に力強くて頼りになりそうなお体ですね。現実逃避に努めているとどこかで立ち止まり腕を離された。
なんだろう。俺、もしかしてまた牽制とかされるのかな?あ、でも暁胡さんは俺のこと潤冬さんの兄弟だと思ってるから逆に正体をバラせって言うのかな……?
「玲音、って、嵩音の兄なのかい?」
ほらね。やっぱり本当のことを言えって。いや、違うんだけども。
「いえ――」
「もし本当にそうなら、嵩音にはまだ話さないで欲しい」
「え?」
「我が儘を言っているのは承知です。でも、出来るなら、このまま言わないで欲しいん、です」
俯き胸の前で握る腕は震えていた。
なんでそんなことを言うんだろうか。潤冬さんが必死に探しているのに、それを言わないでって……
「あの」
「っ、やっぱり無理ですよね。すみません、むちゃなことを言って」
「あ、いえ!えっと、そうじゃなくてあの!俺、会長さんの兄弟ではないです!!」
「えっ、あっ…あ……」
言うと暁胡さんはほっと安心したような表情になった。王道王子様は腹黒だけど、目の前の王子様はなんだか違うみたいだ。
なんかあれに似てる。ほら、あれ……
ちっちゃい子が大事なおもちゃ取られるって勘違いしてどうしたらいいか分かんなくて正面衝突しちゃうみたいな。
あ、そっか。暁胡さんは一度取られたことがあるんだ。でもって今度は俺に取られるんじゃないかって思ってこんなことを。
前にも取られたのは、潤冬さん?と言うことは暁胡さんは潤冬さんと付き合ってるの?でも兄弟に取られるって表現、ちょっと可笑しいような。
それなら、他の何か?でもなんだろう……
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