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第174話
嵩音のため息が増え、最近は彼と会っていないことを知っていた私は正直焦っていた。
次に彼と会う時、もしかしたら嵩音はこう尋ねるんじゃないかと。
「お前、兄さんだよな」
感動の再会にきっと皆喜んで涙するんだろう。
でも私は違うんだ。見つかればきっと嬉しいさ。しかしそれだけじゃない。今度は2人ともいなくなるんじゃないかと思ってしまう。何故なら私は―――
だから誰よりも早く見つけなくてはと焦りが積もり、気が付けば先に尋ねていた。でも彼は違うらしい。兄ではないということは嵩音はいなくならない。
その事実に安堵して、それから冷静になった頭で酷いことをしたのだと、これが本人ではなくてよかったと更に安心までして、今度は自分勝手すぎた行動を悔やむ。
「はっ……」
「暁胡さん?大丈夫ですか?」
「あ、うん。へいきだよ」
目は合わせられそうになく、変に逸らしてしまう。
「玲音、さっきはごめんね」
「え?あ、はい。暁胡さんが会長さんを大切に思っていると分かったので俺は」
あぁ、私はこんなに優しい彼になんてことを言ってしまったんだろう……
勘違いだったとしても疑われたことと同じで、しかも正体を明かすなとまで言ったのに。こんな性格だったのかと幻滅されても可笑しくはないのに、だ。
「それと、俺は暁胡さんの大切なモノはなにも取らないので安心して下さい」
「玲音……」
こんな彼だから、嵩音は構うのだろうか……なんだかその気持ちが少し分かった気がする。
そしたら今度は羨ましく思えてしまい、一歩足を前に進めていた。
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