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第186話「幕開け」
「終業式でもあったように、長期休みだからと言って――」
ツッキーの言葉が全然入ってこない。明日から夏休みなのにウキウキしない。どうしてなのかなんて考えないでも分かる。二日も経ったのに一向に薄れない何かを堪えた暁胡さんの顔と、尋ねようとして喉に押し込んだ中途半端な言葉が何度も勝手に蘇るから。
根源が俺だってこともその一つ。
「玲音までそない顔して、みんな辛気臭いで…ほんま…」
「え」
「これから夏休みやのにジッメジメで眠くなるはっ」
「…ごめん……」
「うがああっ!ちゃうやろっ!!今んとこはキノコ生えるんとちゃうんかっ!?て、ツッコむとこやろ!!」
ダンッ!机を激しく叩いて立ち上がる大翔にポカンと口開けて見上げてしまう。
確かにジメジメでどうして眠くなるんだ?という冷静に考えるとおかしい話に今になって笑いが込み上げてきて、だけどここで吹き出したら負けな気がしてスッと静かに口を手で隠す。
どこまでも冷静な俺よりも更に冷静沈着な声が今度は正面から飛んできた。
何を隠そう、今は彼のホームルーム中だ。
「そんなに熱くなっていれば、まずキノコは生えないだろうな」
「ちゃうんて!ハルちゃんかて分かっとるやろ!?先月からは亜睦ちゃん先輩かてえらい辛気臭くなってしもうて俺の周りにカビやらキノコやらの胞子ふわっふわ飛んでこれじゃあええ夏休みの幕開けでけへんてっ!!もうなんなん俺かてこないなこといいたないけ――」
「分かったわかった。あとでいくらでも聞いてやるから落ち着け。ホームルームだけちゃっちゃとさせてくれ。他のヤツも早く幕開けしたいだろうから」
「あ…すまん…」
珍しく言うことを聞いて大人しくなった大翔も少しは心配だけど、亜睦ちゃん先輩も気になってしまった。
腐男子の統計から推測すると可愛い呼び名イコール見た目も可愛いまたは超絶不良の二択。しかしツッキーも関わるとなれば生徒会関係で不良はいないから可愛い系になるわけで…
確かくりくりおめめで茶色の短い髪をふわふわ跳ねさせキャッキャッとはしゃいでいた人がいたな…きっとあの人が大翔にも分かるくらい元気ないんだろうな……とここまで行きついた。
今日の俺、妙に冴えてるんだけどこの推測力ヤバくない?名探偵レオンに俺はなる!!
まぁ、学食で色々あったあの日、誰がなにで名前は!?と俺が興奮気味……いや、至極冷静に尋ねたんだけど。
×××
名探偵も調査が必要
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