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第2話

「あれ?」 休日の朝。 コンビニにお昼でも買いに行こうとすれば何故か玄関の扉が重い。細く開いたそこから表を見れば見慣れた人物がいた。 「アキくーん」 「……」 おい、勘弁しろよ! なんとか体を扉から外に出して、地面に転がるアキくんを見下ろす。 今日の彼はラフな白地のTシャツにがっつりと膝の出るダメージジーンズ姿で、学生と言われても納得出来そうだ。顔を覗いてみれば酒に酔っているようでアルコールの匂いが漂っていて目元が赤い。 「こんなところで寝ていたら風邪引くよぉ」 「…ん」 返事をしたようにも思えたけれど、また規則正しく呼吸を繰り返し始めたアキくんに深くため息をついた。 (鍵、) ポケットを探って鍵を出す。彼の腕を持ち上げようとするも想像以上に重い。 「ちょ、重、アキくんっ、起きてっ」 力が抜けた成人男性はこんなに重いのかよ。 呼びかけにも一切反応しない彼を無理矢理気味運んでに床に転がした。 (家には入れてやったんだから感謝しろよな) じんわりと汗が伝う。 朝から余計な体力を消耗した。 しゃがんで彼の顔に掛かった前髪を払うと、ベランダ越しに見る彼よりも随分大人っぽい。いやもういい大人なのだからこんな言い方はおかしい。歳相応までは言えないけれど、少なくとも20代とは言えない大人の色香があった。 「ん、あれ、ここ…どこ、」 焦点の合わない瞳がぼんやりと動く。 「自分の家だろ」 くる、と動いた彼は半目で僕を見た。 「あれ、ケンジしゃんじゃね、ふふ、」 小さく笑って瞼が落ちる。 また繰り返される深い呼吸。 僕は、静かな室内にひとり取り残された。 (……やっばい) 逃げる様に彼の家をそのまま後にする。 急いで自分の家の玄関の鍵を閉めて、右手でドアノブを握り締めたまま扉に額をくっ付ける。左手にはアキくんの家の鍵を握り締めたままだった。 ドキドキと心臓が忙しなく動いて体が熱い。 (お隣さんなのに、こんなの、) そうは思っているのに。 (バカなんじゃねえの) この歳で、しかも今更、酔っ払ったあんな姿にドキドキして、まさか。 まさかそんなこと、ある筈がない。 ゆっくり目を閉じて深く息を吐く。 それでも鳴り止まない胸の鼓動は体全体に響いていて。 (こんなの、一生しなくてもいいと思っていたはずなのに) いきなり転がり落ちたこの気持ちに戸惑いと息苦しさを感じる。 玄関にずるずるとしゃがんで靴の先を眺めた。 『浮気どころか、相手が男だなんて!!』 別れた元妻が初めて僕に平手打ちをしたあの日。 『女がダメならなんで結婚なんかしたのよ!』 キンキンと響く声が頭の中を巡る。 僕はあの日から、ずっと何も変わっていない。 また僕が惹かれているのは、自分と同性の男だった。

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