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第4話
煙草ももう止めようと思っているのに、それを理由にして今夜もベランダへと出る。明日からは暫く雨らしい。
(雨なら暫くはアキくんと会えないなあ)
カチカチと何度かライターを鳴らして火をつけた。人ひとり分程しかないこのベランダは、雨が降れば窓に打ち付けるくらい降込む残念な設計になっている。
深く吸って細く煙を吐き出すと、外に置いたままの灰皿がもう一杯になっていることに気がついた。
「煙草吸いすぎだよー」
アキくんのその声にすぐに振り向きたいのを我慢して、ゆっくり視線を移す。
「これでも減らしているんだよ」
最近会社ではあまり吸わなくなった。
夜、ベランダで吸う為に取っておきたいと思うようになり、そうなると徐々に量が減っていく。それに喫煙所のある地下までオフィスからわざわざ降りることが面倒になってきた。それならささっと出来る仕事は終わらせて、早く家に帰りたい。周りにも禁煙しているんですか、と聞かれるまでになった。
「ふーん」
「アキくんは吸わないの?」
「19歳で止めました」
「うっわ、不良」
「煙草吸ってるっていう行為がね、カッコよく思っていたんだよねえ」
「……わかる」
僕は社会人になってから吸い始めた。当時先輩や上司は皆当たり前のように吸っていて、それは出来る男の象徴のように思えていたし、コミュニケーションの一部だった。
「ケンジさんもそろそろ止めないと」
手摺に片肘をついて顎を支えながら此方を見つめるその立ち姿に、やっぱりアキくんはカッコイイなあと夜の冷えた空気に白い煙を吐き出す。
「そうだねえ」
「あ、やる気無さそう」
「あるよ、めちゃくちゃある」
「うっそだあ」
半分程も吸っていなかったそれをパンパンになっている灰皿に押し付ける。煙草を止めてしまったら、ベランダに出る理由が無くなるじゃないか。
そこまで考えて、はたと疑問に思った。
「アキくんはどうしていつもベランダに出ているの?」
「ケンジさんに会いたいからに決まってるでしょ」
「……え?」
すみません、電話だ、そう言って遠くで鳴り響く単調な着信音の元へ向かったアキくんの言葉が脳内に響いている。
今の僕はフワフワしているから。
良いように解釈しちゃうよ。
いいの?それで。
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