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手を伸ばして
「ねえ大ちゃん、今日家でご飯食べてかない?」
「いや、でも」
「お前、創の作ったものが食えねえのか?」
「じゃあ全部食うぞ」
「ダメだっ!食うなっ!」
「どっちだよ…」
球技大会が前日に迫った日、そんなやり取りを帰りにしながら渡辺家に寄った。大抵飯食ったら泊まるようになる。今日もそうっぽいな。
明日は朝からずっと球技大会で、選手も応援も、グラウンドと体育館を行ったり来たりするんだろう。それ以外は自由時間で、練習したり遊んだり、好きに過ごしていい事になっている。
「大ちゃん達、先にお風呂入って来ていいよ?」
「おー………いや、『達』って」
慌てて聞き返すも、既に創は夕飯の準備に取り掛かっていて、継はといえばその後ろから創に抱きついていた。
なんなんだこいつら…とは今更思わないけど。
荷物を置きにジャスティンと部屋へ行くと、いきなりどさっという音が聞こえた。びっくりして振り返ると、ジャスティンがベッドに仰向けに倒れこんだところだった。
ちらりとこちらを窺いみて、ぽんぽんとベッドの淵を叩く。
じっと無言で見つめ返したら、苦笑いしながら腕を引かれてそこに倒れこんだ。
「う、わっ…っ!」
「信用ないな…何もしない、大丈夫」
「っ、おっ、おう…」
気付いた時にはジャスティンにぎゅっと抱きしめられていて、その腕の逞しさにちょっと見惚れてしまった。
制服が半袖のせいで、前腕筋とかばっちり見えて。そっと手を伸ばして触ってみる。
「ダイスケ、くすぐったい」
「ハグさせてやるから触らせろ」
「まあ、慣れてくれたならいいが」
「ん?」
何でもない、と呟きながら腕の力を強くされて、ちょっと苦しい。
そっと胸の辺りに頬ずりしてみる。
なんか、幸せ。
とくん、とくん、鼓動が聴こえる。
そっと頬ずりしながらぴったりと耳を充ててみると、今度はそれが耳元で響く。ん?ちょっと速くないか?
「なあ、お前…もしかして緊張してんの?」
「ものすごく」
ふと顔を覗き込んでやろうと上を向いてみれば、なんか手のひらで顔を覆ってて、耳まで真っ赤になってる。
なんだよ、自分からしてきたくせに。
「ふうん、まあいいけど、」
俺だけドキドキしてんのかと思った。そっか、鼓動が二人分重なって聞こえてたからか。
ジャスティンにこうやって抱きしめられんのは、なんとなく慣れた。でも平気ってわけじゃなくて、やっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしい。
なんで俺ばっかこんな気持ちになってるんだ…?
こいつも恥ずかしがればいい。
「…もっとぎゅってしろよ」
ああ、失敗した。
俺が更に恥ずかしくなっただけだ。
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