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午前二時のコール
【創side】
好美さんの車で送ってもらって、灯りのない家に帰ってきた。鍵を開けて、ドアを引いて、中に入って。
継の靴が、無い。
ただそれだけで、継がいない事を改めて実感してしまい、胸がツキンと痛んだ。
「鍵、閉めなきゃ…」
継の腕の感触を思い出しながら、ドアに鍵をかけて電気を点ける。靴を脱いで揃え、家の電気全てのスイッチを押した。
のろのろと二階に上がり、部屋に入ってベッドに倒れ込む。布団から継の匂いがして、なんかもう泣きそうだよ、継…
継に会いたい。抱きしめて、キスして、愛してるって言って欲しい。
「継ぇ…」
カバンからスマホを出して、継に掛ける。
トゥル…
『創っ⁉︎着いたか⁉︎大丈夫かっ⁉︎』
「…ふふっ、出るの早いよ、継」
呼び出し音がした瞬間に聴こえた継の声。寂しかったのが、なんだか一瞬で吹き飛んでいって、もしかしてずっとスマホの画面見て待機してたのかなあなんて思ったら、今度は嬉しくなった。
ああ、ほんと単純だなあ。たったこれだけの事なのに、幸せを感じるんだもん。
『創、ちゃんと鍵閉めたか?』
「うん、大丈夫だよ」
『電気は?』
「全部点けたよ、もう部屋」
『そっか…』
はああ…という大きなため息が電話越しに聴こえた。
どうしたの?と問いかければ、少しの沈黙のあと、ちょっとだけ掠れた声で言われた。
『……創に会いたい』
「継…」
『抱きしめて、ちゅーして、愛してるって言いたい』
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられたように痛いのに、不思議とそこから暖かくなっていくような気がした。
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