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午前二時のコール
『あ、そういや林さんがなんか用事あるみたいだぞ』
「林先生が?なんだろう、明日聞いてみるね、ありがとう」
林先生は音楽の先生で、実はピアノも同じ先生に習ってきた、いわゆる兄弟弟子のような存在。小さい頃から知っていて、継がピアノを辞めてからは連弾も何度かしている。
音楽の先生になりたいって言ってたけど、まさかこの学校だとは思わなくて、入学してみてびっくりした。おかげで継の部活の間に体育館のピアノを貸してもらえるようになった。
この人も、おれと継の事は知ってる。知っても変わらず接してくれていて、お姉さんがいたらこんな感じなのかなあって、いつも思ってた。でも継以外はいらないけどね。
「朝寝坊したらだめだよ?」
『ん、7時に起きなきゃだから電話して』
「もう、しょうがないなあ」
なんて、口ではそんな事を言ってはみるけど、おれだって継の声が聞きたい。いつもなら継の腕に抱かれて眠りについて、その中で起きて、朝一番に見るのは継の顔で、朝一番に聞くのは継の声。でも、明日と明後日はそれができない。ならせめて、電話越しでもいいから継の声が聞きたい。
ああ、ほんと継がいないとダメみたい。
「継…大好き」
『ん、オレも。愛してる、大好き』
電話の向こうで集合の笛が聞こえる。まわりがガヤガヤし始めた。
まだまだ話してたいけど、行かなきゃだめだよね。
「ほら、行っておいで?」
『ん…もう遅いし、ゆっくり寝ろよ?』
「継もね?おやすみなさい…」
『おやすみ…また明日な?』
「………切ってよ」
『創こそ切れって』
なんだか名残惜しくてスマホを耳に充てたままにしていたら、いつまでたっても通話が切れる気配がない。
どうやら、継も同じだったみたい。
お互い同じ事をしてたら、そりゃあ切れないよね。
「じゃあ、今度こそほんとに切ろうね?」
『ん…………おやすみ』
「おやすみなさい、また明日ね」
さっきと同じ会話をして、今度こそ本当に通話が切れる。
その瞬間に、ベッドがひどく大きく感じた。
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