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合宿最終日

【創side】 継の手のひらから離れたボールは、綺麗な軌跡を描いてゴールに吸い込まれた。 かっこいい。すらりと伸びた手足に、真剣な横顔。思わず見惚れていたら、後ろから風が強く吹き、おれの姿を隠してした暗幕が捲れ上がる。一瞬、本当にほんの一瞬だったんだけど、継と視線が合って。 「創っ!!!!」 「えっ、あれ?うそ、今ので見つかっちゃったの?」 今まで見せていたかっこいい顔から一変、嬉しそうな笑顔で全力でこちらに向かって走ってくる。 速い。陸上部から声がかかるわけだよね。 でもこの速さは、おれの所に来る時だけなんだって、ちょっと自惚れてる。 あっという間に継の腕に囚われて、ぎゅっと抱きしめてくれる。今までずっと動いていたからか、体が熱い。 「創、いつ来たんだ?」 「え?あ、んーと、今さっき」 ウソです、ほんとは今のゲームが始まる前。最初からずっと見てました。 「継、ほら、田口くんお迎えに来たよ?」 呆れ顔の田口くんがこちらに歩いてきた。うちの弟がもうほんとごめんなさい。 「まだ終わってないでしょ?いい子だから、最後までちゃんとしよ。ね?」 「うー、わかった…」 汗で湿った髪を撫でてあげれは、渋々といったように継が腕の力を緩めて、おでこを合わせてきた。 ちゅ、と鼻先に触れるだけのキスをする。途端に笑顔になる継を、心の底から愛しいと思う。 「じゃあ、もうちょい待っててな?」 「うん、いってらっしゃい」 田口くんに背中をバシッと叩かれて痛そうな継に手を振り、靴を脱いで体育館へ入った。すぐ横の壁に寄り掛かり、継の姿を目で追う。 こちらを振り返った継が、ぶんぶんと手を振って笑ってくれた。 なんだろう、たったそれだけなのに、すごく嬉しい。
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