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やわらかな溺愛
薄暗い館内は、たくさんの人で溢れかえっていた。家族連れ、恋人同士…誰の目を気にする事もなく、おれ達もそこに混じって指を絡めてくっついて歩く。
わりとどこに行くにもそうして来たけれど、やっぱり往来だと周りからの視線とかがある。まあおれ達の場合は「仲のいい双子」で済むけれど、知らない人が継の事をジロジロ見るのは正直イヤだ。おれの継だもん、そんなに見ないでよ。いつもそう思いながら。
「…ん、どうした?」
ふと足を止めてしまったおれの手を引き、後ろから来る人を避けてくれる。じっとその顔を見上げて、繋いだ手に力を込めた。
「継…ぎゅってして?」
「なに、どうしたんだよ?」
「だめ?」
ぐいっと腕を引かれ、水槽とは逆の壁に背中を押し付けられる。暖かな体温に包まれると、ゆっくりと髪を撫でてくれた。
こんなにたくさんの人がいるのに、継はおれだけを見てくれてる。その継の事は、誰も見ていない。二人だけが切り離されたみたいで、ちょっと不思議な感じがした。
継の匂いをいっぱい吸い込んで胸に顔を埋める。撫でていた髪に唇を押し付ける感触が伝わってきて、継の背中に回した腕を緩めて上を向くと、おでこにキスしてくれた。
「なんか、今日はすげえ甘えんぼだな」
「…だめ?」
「そんなわけないだろ、可愛くて困るけどさ」
ニカッと笑って、唇を重ねてくれる。ちゅ、ちゅ、と啄ばむように何度も繰り返し降ってくるキスが嬉しくて、幸せな気持ちに包まれた。
しばらくそうしていると、苦笑する継の声で我に返る。
「オレはいつまでだってこうしてたいけどさ、イルカショー始まるぞ?」
「あっ、そうだった!」
すっかり忘れてた。
再び手を繋ぐと、屋外プール目指して二人で走った。
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