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並んで幸せ

その柔らかい唇に触れる寸前、不機嫌そうな声に邪魔された。 「おい、こんなとこでイチャイチャすんじゃねえよ」 「うるせえヘタレ」 苦笑しながら創が鼻先にちゅってしてくれる。見上げればあのヘタレカップルがいた。 なんだよ、自分らが出来ないからって八つ当たりすんなよな。 「継、お昼ご飯にしよう?」 「ん、わかった」 先にベンチから立ち上がり創に手を伸ばす。素直にそこに手のひらを重ねてくれるから、オレの方へと引き寄せた。 四人でレストランに向かうと、ちょうど席が空いていてすぐに案内してもらえた。オレ達の後から来た人は順番待ち。 この水族館のレストランは、大水槽に面したテーブルが人気で、偶然にもそこに通してもらえた。創を水槽側に座らせ、オレはもちろんその隣。大介も水槽側に座ってる。 「何にする?」と創がメニューを広げて見せてくれた。内容は普通のファミレスと変わらない。 「あっ、これにする!」 創が指差したのはホットケーキ。粉砂糖でイルカとペンギンの絵が描かれてる。うん、創らしいな。 オレは…どうしよう。オムライスもカレーも、創が作ってくれるのが一番美味いから、外ではあまり食わない。 何にすっかなあ。創食いたいなあ。 「んー、これでいいや」 「うわあ、マンタが来たよっ!」 すっかり水槽に夢中になってる創が可愛くて、頭を撫でてやったら嬉しそうにこっちを向いてくれる。可愛いなあもうマジで。 通りがかった店の人に注文を伝え、テーブルの下で創の手を取り指を絡める。当たり前のように握り返してくれるのが、すげえ嬉くて、幸せだなあと実感した。 創の耳元に近付いて「創、愛してる」と囁く。一瞬にして頬を染める創が、ふわりと微笑んで「おれも、愛してる」って言ってくれた。 あー、早く帰りたい。

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