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ちゅー

「あ、もう終わりだ…」 なんとかちゅーしたい衝動を抑えて館内に戻り、順路を進む。次第に明るくなっていき、展示が終わってショップに出た。 「ぅわあっ、可愛いー!」 「えっ?あ、おい走るなって」 いきなりぱっと手を離されてちょっと寂しいオレを残して、ぬいぐるみコーナーに直行する創。その背中を見失わない程度にゆっくり追い掛けて、たくさんのぬいぐるみに囲まれ嬉しそうな創を見守った。 ヘタレ二人は適当にぶらついてくると言い残し、買い物したら出口で落ち合う事にした。 「見て見て継!しろくま!イルカもー!」 大きなぬいぐるみを抱えた創が可愛いね〜なんて言ってくるけど、そいつらに囲まれてる創の方が何倍も可愛い。 「ね、いっこ買ってもいい?」 「ったく、しょうがねえなあ」 「えへへ、やったあ!どれがいいかなあ?」 しろくま、ペンギン、イルカ、マンボウ…それぞれの頭や鼻先を撫でながら、その中の一体を真剣に選んでる。 彷徨う手が、あるぬいぐるみを持ってじっと見つめていた。 「これにする」 「ラッコ?」 「うん。ほら、おれ達みたいでしょ?」 創の腕の中にいるラッコのぬいぐるみ。どうやらそれはニコイチみたいで、二頭のラッコがお腹に貝を抱え、反対の手をしっかりと繋いでいる。 ああ、なるほど。確かにオレ達みたいだな。 ラッコは広い海で流されないように、仲間と手を繋いで眠る習性があるってタグに書いてある。まあ、手を繋ぐ理由はオレ達とは違うけど。 「こっちの子が継ね」 「え…ああああーーっっっっ!!!」 オレがそのタグに目をやってる間に、あろう事か創がラッコにちゅーした!オレは我慢してんのにぬいぐるみにちゅーした!!!! 「ちょっ、ダメっっっっ!!!」 「継?」 「オレ以外にすんなよ!!」 ばっと創の腕からぬいぐるみを奪い取り、ごしごしと創の唇を指で拭う。 うわあ、独占欲丸出しで超カッコ悪い… 自己嫌悪に陥りそうになった時、暖かい指がちょん、と唇に触れた。俯いていた顔を上げると、ふんわりと綺麗に笑った創がすぐ近くにいる。 「ふふっ、ヤキモチ?」 「ん…」 その手がぽんぽんと頭を撫でてくれる。こういうとこはやっぱ兄ちゃんて感じなんだよな。 「帰ったらいっぱいしてね?」なんて爆弾を落としてからレジに向かうその後ろ姿に、創には一生敵わないな、なんて思った。

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